「広告マンの8割はいらない!」


広告ビジネスの競争環境は厳しさを増している。広告会社が生き延びるためには「グローバル化とデジタル化」の波に乗るしかない。日本の広告業界が対応するために残れた時間も少ない。そういう見解をよく耳にする。海外プレーヤーたちの対応が進んでいるのは確かで、日本の大手も手をこまねいているわけではない。

ただ、メディアビジネスの世界で、日本の広告会社が果たしてきた役割はかなりユニークだ。こちらは世界基準にはあまり馴染まないように思える。世界の潮流に伍して挑もうとする意欲と、日本ローカルでの固有の強みの維持は、うまくバランスが取れるだろうか。今回は、そんな視点で書いてみたい。

マーティン・ソレルのインタビューが興味深い

 

欧米広告業界では有名な経営者に、マーティン・ソレルという人がいる。 1945年生まれだから、まもなく70歳になる。すでに数十年間にわたり、WPPグループのCEOをつとめてきた。イギリスの広告会社「サーチ&サーチ」社の財務担当からスタートし、広告業界に「大規模なグローバル経営手法」を持ち込んだ人だ(WPPは世界最大規模の広告会社コングロマリットだが、最近でも、競合他社間での合併の動きが、いろいろ起こりつつある)。

 

WPPのCEOのマーティン・ソレル氏。 (Linked Inのインタビュー映像をキャプチャーしたものです)

WPPのCEOのマーティン・ソレル氏。
(Linked Inのインタビュー映像をキャプチャーしたものです)

 

つまり、それまでは広告の制作やマーケティングに長けた個人才能を中心に経営されていた広告会社を、M&A手法を駆使しながら資本統合し、グローバルネットワーク化してきた。

かつて電通は「世界で一番大きな広告会社」であった時期が長かったが、この人の登場とともに業界に持ち込まれた経営手法が、世界の広告会社のランキング表を変えてしまった。各社の経営規模が一斉に大きくなった。 ソレルは、広告主の先手を打つように、広告会社のグローバル布陣を指揮してきたし、逆に考えれば、広告会社のグローバルネットワーク化が急展開した一番の(根本の)理由は、同じ時期に、クライアントがマーケティング布陣をグローバルに、かつデジタルシフトさせながら拡大してきたからだとも言える。

ソレルは、メディアにもよく登場している。最近もLinkedInのインタビューに応じていて、たまたま、slideshare経由で配信された動画を見た。その感想を交えて書き留めておこう(文末にリンクを掲示)。

 

世界最大規模の広告会社がデジタルに大きく舵を切る

 

WPPグループの売上は、18ビリオンUSドル(1兆8千億円)。そのうちの、6ビリオンドルは「トップクライアント・リスト」の41社からもたらされるそうだ。ちなみにWPPグループの従業員数は17万人で、そのうち3万5千人は、これらのトップクライアントの仕事に専任であたっている。

ここまではいわば、お金が流れてくる川上を向いた話だ。 では、受け取ったお金はどうなるか。今は、四分の三が「デジタルメディアの取引や、デジタルデータの活用や分析」などを行う部門の売上に繋がるそうだ。広告作品制作や、マーケティングの知見、といった属人的な職能をベースに機能していた広告会社だが(それらが不要になったわけではないが)、大量のデジタルデータを扱いながら、広告の買い付けや配信業務を行い、また得られる効果データを分析するというオンライン主体の仕組みに大きく舵を切っている。 そうした部門の強化のために、積極的な投資を行い、データを扱う組織を拡大させている。ここでは「広告会社の経営内実は、投資銀行のようだ」と言われるほど、大きな資金が動くようになってきた。

 

 

広告会社の人員の変化『2012年から2013年への変化』 デジタル領域での伸びが顕著( Ad Age誌 「2014年レポート」より)

広告会社の人員の変化『2012年から2013年への変化』
デジタル領域での伸びが顕著( Ad Age誌 「2014年レポート」より)

 

 

さてインタビューの中でソレルは、現代の広告作業には「Mathmen(数字とテクノロジーに強い才能)」の要素と「Madmen(アイデアに優れた広告マン=この言葉のタイトルがついたアメリカのテレビシリーズが60年代や70年代のクリエイティブ中心の広告マンの世界を描いてヒットしている)」のバランスをとることが大切だと言っている。 現状のWPPは、フォード、ユニリーバ、アメリカンエクスプレス、がトップ3のクライアントで、この3社を含む数十社のクライアント作業を「ホリゾンタル布陣(ホリゾンタリティ)」とソレルが呼ぶところの、世界に張り巡らせたネットワーク組織が支えている。

このグローバル布陣は、とくに限定された数十のクライアントに応じたものとも言える。ちなみに、電通の日本国内のクライアント数は、約6,000社と言われる。海外で電通グループが接するクライアント数はずっと少なくなるだろうが、実は、日本の広告会社が行うサービスの実態は、海外の広告会社の行うものとはだいぶ違っていると言えるだろう。 一方で、ソレルは、デジタル時代でも人が大事だ(人のマネジメントは難しい)、と主張する。「優秀で、協調的(ソレルの戦略を理解してそれに協力できる、という意味だろう)な人はなかなかいない」とか、「誤解を恐れずに言えば、協調的な人材は多いが、そうした人がエクセレント(優秀)であることはあまりない」というような面白い発言もしている。ただ基本は、仕事を人が支えている、という考え方だろう。

 

広告マンの8割はいらない?

 

そんなことを考えていた折に、「広告マンの8割はいらない!」という刺激的な帯文がついた本(『広告ビジネス・次の10年』横山隆治・榮枝洋文による共著/翔泳社)を見つけた。さっそく手にしたが、類書にはない海外プレーヤーに関する知見が面白かった。

広告ビジネスの主戦場がデータマーケティングに移ってきている。しかもデジタル環境では、広告主が一次的な顧客情報(ファーストパーティーデータ)を持ち、キャンペーンや広告活動への分析やフィードバックを主導する。こうした領域での対応が死活的に重要だ。だから「これから広告会社は何をするべきなのか」と問いかけるとき、営業中心の組織を維持し、デジタルに弱いとされがちな日本の広告会社への警鐘が導かれる。極端に言えば「現状の広告会社組織の人員の8割は不要かもしれない」ということらしい。 もっとも、筆者たちは「デジタル化、グローバル化という大変革の波を日本の広告代理店に乗り切ってもらいたい。そして次世代型の広告代理店として次の成長モデルを構築してほしい(本書の冒頭の文章より)」と書いている。この本の二人の筆者は、ソレルと同じ動きを見ているのだと思う。

 

日本の広告会社のユニークさ

 

はたと考え込む。

グローバ化とデジタル化を推進するクライアントに、パートナーとしての広告会社が同じ目線での対応を進めることは、もちろん自然な動きだ。 だが(筆者の個人的な経験も踏まえて書けば)、日本の広告会社は、違った側面も持ちながら発展してきた。つまり、果たしている調整機能は、海外よりも複雑で広範だ。そのことは、典型的にはメディア側に向いた仕事をする部分に現れてくる。欧米流のメディアレップの機能を、広告会社が補ってきた面がある。社会機能としての二面性を抱え込んでいるとも言える。

例えば、テレビスポットの商慣行では(広告会社はメディア側を代行する立場にいることになるので)、特定メディアの取り扱いを増やせば、広告会社への報酬が増加する仕組みになっている。企画したり、制作したり、調整したり、といった部分での関与は大きい。こうした両義性には、批判も賛意も共に寄せられてくるわけだが、対応する組織には存在感がある。

筆者が思うに、こうした部分への視点がないままの「広告会社の近未来議論」は。少なくとも日本では説得的とは言えないのではないか。 日本の広告会社の経営思想は「グローバルスタンダードの競争に参加して、世界で戦ってみたい」というスピリットと、「日本ローカルのビジネス基盤を手放したくない」という思いの間で、引き裂かれがちなのだ。有名な岸田秀の理論を持ち出せば、「外的自己」と「内的自己」の分裂ということになる。だからここでも、日本の社会全体が抱えている大きな課題に、広告の世界も対応を迫られている。

解決は、そうすんなりとはやってこないかもしれない。

 

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2 thoughts on “「広告マンの8割はいらない!」

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