今からでも遅くない? 年収200万円と800万円の分かれ道


「年収格差」――。多くのサラリーマンはこの言葉を聞いて、ビクッとするのではないだろうか。欧米ほどではないが、日本の企業でも社員の収入格差は広がりつつある……とも言われている。

近い将来、「サラリーマン世帯の貧困化が進む」「中流家庭が崩壊する」といった言葉を目にすることがあるが、「給料が下がるのは嫌だ。できればたくさんもらいたい」といった人も多いのでは。では、どうすれば満足できる金額を手にすることができるのだろうか。リクルートでフェローとして活躍され、その後、杉並区で中学校の校長を務められた藤原和博さんに聞いてきた。聞き手は、ITmedia ビジネスオンライン編集部の土肥義則。

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藤原和博氏のプロフィール:

教育改革実践家。杉並区立和田中学校・元校長。元リクルート社フェロー。1955年東京生まれ。1978年東京大学経済学部卒業後、株式会社リクルート入社。東京営業統括部長、新規事業担当部長などを歴任。

メディアファクトリーの創業も手がける。1993年よりヨーロッパ駐在、1996年同社フェローとなる。2003年より5年間、都内では義務教育初の民間校長として杉並区立和田中学校の校長を務める。08年~11年、橋下大阪府知事ならびに府教委の教育政策特別顧問。14年から佐賀県武雄市特別顧問。

著書は70冊で累計117万部超。『人生の教科書 よのなかのルール』『人生の教科書「人間関係」』(いずれも、筑摩書房)など人生の教科書シリーズ、『坂の上の坂』(ポプラ社)、『藤原和博の必ず食える1%の人になる方法』(東洋経済新報社)、『本を読む人だけが手にするもの』(日本実業出版社)ほか多数。

年収格差は広がっていく

土肥: 下の図を見ていただけますか。サラリーマンの年収はバブル経済が崩壊して、10年ほど右肩下がり。ただ、アベノミクス効果もあって、ここ数年は少し上昇していますが、今後はどのような動きをしていくと思われますか?

yd_money1.jpgサラリーマンの平均年収(出典:年収ラボ)

藤原: 年収が高い層と低い層に分かれていくのではないでしょうか。

土肥: 年収格差が広がっていくという意味ですね。

藤原: この流れは止めることができないでしょう。高度経済成長期以降、多くのサラリーマンは年収400万~800万円を手にしていました。いわゆる“中間層”ですね。働く人でありながら消費者でもある……1億総消費者の時代だったので、日本は国内需要だけでかなり儲(もう)かっていて、その利益で海外展開を進めることができました。

そして、海外でも儲かったので、そのお金を使って設備投資などをして……といった感じで、経済はうまく回っていた。しかし、これからは違う。年収200万円~400万円くらいの人と年収800万円以上の人――この2つの層の格差が開いていくのではないでしょうか。

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かつての日本は中間層が多かったが……

土肥: なぜそのような動きになるのでしょうか?

藤原: それは「成長社会」から「成熟社会」への変化が深く関係しているんです。

土肥: あ、前回、お話いただいたテーマですね。戦後の焼け野原から、日本の経済はジグザグしながらも右肩上がりで成長してきました。しかし、バブル経済崩壊の影響を受けて、金融機関がバタバタと倒れていった。それまでのことを藤原さんは「成長社会」と呼んでいて、ひとことで言えば「みんな一緒」という意識が強い世界だった。学校の先生や親の言うとおりに、“いい子”にして、“偏差値の高い大学”に入学し、できるだけ“大きな会社”に就職できれば、それなりの年収を手にすることができた。そうしたルートを、みんな一緒に走っていたんですよね。

藤原: はい。当時は「情報処理力」が求められていました。例えば、ジグソーパズルのピースには必ず“正解”があって、それをいかに早く見つけるかという頭の回転の速さが求められていたんです。

しかし、1997年に山一証券などが経営破たんしてから、成長社会が崩れていきました。次に、やってきたのが「成熟社会」。今の時代は、身に付けた知識や技術をさまざまに組み合わせて、みんなが納得できる解……すなわち“納得解”を導き出さなければいけません。ひとつの正解をできるだけ早く見つけるのではなく、頭の柔らかさが重要になってきました。この、納得解を作り出す力のことを私は「情報編集力」と呼んでいます。

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土肥: 情報編集力の高い人たちは、年収が高くなっていくということでしょうか?

藤原: 基本的にはそうですね。ただ、それだけでは難しい。高年収を手にするには「希少性」がポイントになるのではないでしょうか。

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サラリーマンの年収は格差が生まれそう

中学生か高校生のときに「需要と供給」について学んだはずです。また、社会人になってからも仕事を通じて「需要と供給」を学んだ人も多いでしょう。それなのに「年収は需要と供給の関係で決まる」ことを知らない人が多いんですね。

土肥: どういう意味でしょうか?

藤原: 「自分は仕事をきちんとやっているのに、上司が評価してくれない」と嘆いている人って多いですよね。もちろん、上司が高く評価すれば年収がアップする企業もたくさんありますが、それだけではダメなんです。年収は「需要と供給の関係で決まる」ことを認識しなければいけません。

ただ、年収が3割アップしても、年間総労働時間が3割増えていたら、“同じ”ですよね。以前は年2000時間働いていたのに、2600時間働いたら年収が3割アップしたということ。これでは、全く生産性が上がっていないことになる。長く働いて年収をアップさせるのではなくて、同じ労働時間で年収をアップさせなければいけません。つまり、時間当たりの付加価値を上げなければいけない。

土肥: 年収で考えるよりも、時給で考えるほうが分かりやすいですね。

藤原: そうです。先ほど希少性について触れましたが、希少性を確保するには2つのポイントがあるんです。需要がたくさんある市場で、供給が少なければ稼ぎが上がる。もう1つは、需要がそれほどない市場でも、供給側が1人しかいなければ稼ぎが上がる。例えば、小さな島で人口が少なくても、医師の免許を持っているのが1人であればその人は稼ぐことができますよね。

京都や奈良といった観光地で、タクシーの運転手をするようなケースを考えてみましょう。たくさんいますよね、ドライバーは。需要と供給の関係でいえば、平日は供給のほうが多いでしょう。でも、英語を話せるタクシードライバーはどうでしょうか?

土肥: 外国人からの需要がありそうですね。

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希少性と掛け算の関係

藤原: タクシードライバーの年収は減ってきているかもしれませんが、英語を話せる人は話せないドライバーより稼ぐことができるはずです。日常会話ができるだけだったら、それほどの価値はないでしょう。では、英語が堪能で古都の歴史に詳しい人はどうでしょうか。「英語」と「歴史」をタクシーに掛け算して勝負するんです。京都の金閣寺や奈良の大仏について、英語で案内できる人ってあまりいませんよね。

土肥: 日本語で説明するのも難しい……。

藤原: 英語がちょっとしゃべれるくらいでは希少性が出ない。だから、古都の歴史を学ぶことで、希少性が生まれるんです。希少性を高めるためには、こんなふうに“掛け算”していかなければいけないんです。

土肥: 希少性と掛け算の関係について、もうちょっと話を聞かせていただけますか?

藤原: オリンピックのメダリストになるのには、100万人に1人くらいの確率です。その100万人の中でたった1人の存在になれば、年収1000万円以上どころか、人によっては億単位で稼ぐことができるでしょう。100万人に1人の存在にいきなりなるのは難しいですが、まず、100人の中で1人になるのはそれほど難しくありません。

100人の中で1人の存在になるには、1万時間くらいあればなれると言われています。1日6時間その仕事に集中すると、だいたい5年で1万時間になる。1日3時間でも10年でその仕事をマスターできるでしょう。そうして100人に1人になることができれば、次はそれに近い別の分野で、100人の中の1人を目指す。例えば、20代で営業で100人に1人の存在になって、次の30代で販売分野で100人に1人の存在になると、100分の1×100分の1で、1万人に1人の存在になることができる。掛け算の妙ですね。

ファーストリテイリングの柳井正さんや、ソフトバンクの孫正義さんのような天才レベルを目指したければ、挑戦してみてもいいでしょう。ただ、お2人には1000万人に1人……いや、1億人に1人くらいの希少性がある。ですから、多くの読者にはハードルが高すぎます。まずは100人に1人の存在を目指し、それを別の分野で繰り返し、掛け算で勝負するほうがいいのではないでしょうか。

土肥: ふむふむ。

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自分の希少性を上げていく

藤原: 旅行会社でツアーコンダクター(以下ツアコン)として働いていても、やがて行き詰る人が多いんですよね。会社を辞めて、ツアー会社を設立して独立されるケースもあります。でも、下請けだったり、孫請けだったりすると、どうしても利益は薄くなる。そこで、もし犬が好きな人であれば、犬に関係する仕事(トリマーや訓練士など)を5年ほど夢中でやって、ツアコンのキャリアを掛け合わせれば、犬好きな人をターゲットにしたツアコンができるかもしれません。

その仕事は全国展開する必要もないですし、東京でなくてもいい。地方で展開しても十分やっていけるのではないでしょうか。

土肥: 犬×ツアコンの話をされましたが、そのような掛け算ってたくさんあるのではないでしょうか。

藤原: あります、あります。ちょっと変わった例も挙げてみましょう。いま「地方創生」という言葉をよく耳にしますが、成功しているケースを見ていると、ほとんどが掛け算で企画されている。例えば、大分県は地元の温泉をアピールするために、プロのシンクロナイズドスイミングチームと実在する温泉の“掛け算”で動画をつくりました。水深は50~100センチほどしかないところで、シンクロを行う。厳しい条件の中で繰り広げられた演技は、多くの人に見られて話題になりました。

土肥: 温泉×シンクロで、希少性が増したわけですね。

藤原: 需要と供給のことを考えずに、また自分自身の希少性をどう演出するかも考えずに仕事をしていると、今後「年収」は下がる可能性が高くなると指摘しておきましょう。なぜなら、いま人間がやっている仕事が、明日コンピュータにとって代わられるかもしれないから。ホワイトカラーが今やっている多くの処理業務は、IT化やロボット化が進んで、やがてなくなっていくでしょう。そうした影響を受けないようにするにはどうすればいいのか。何かと何かを掛け算して、自分の希少性を上げていかなければならないのです。

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