信長から学ぶ①


 


信長から学ぶ①


ソニー、パナソニック、シャープなど日本の家電・エレクトロニクス産業の苦境が続いている。かつて世界をリードした日本の製造業がなぜ、これほど低落したのか。原因は技術力だけではなく複合的な戦略の不在であると、産学連携推進機構理事長の妹尾堅一郎氏は指摘する。テクノロジーの戦略としてオープンとクローズの両面での活用を説くとともに、快進撃を続けるAppleのビジネスモデルを「価値のレイヤー」という観点から解析する。

特定非営利活動法人 産学連携推進機構 理事長 妹尾 堅一郎 氏
特定非営利活動法人 産学連携推進機構 理事長 妹尾 堅一郎 氏

技術力で勝る日本が、なぜ事業で“負け続ける”のか

―『技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか』(ダイヤモンド社)という本を出されてから3 年。日本の産業の実証的な状況から警告を発せられたこの本で、多くの人々に示唆を与えたと思うのですが、その後も日本の製造業は、ますます苦しくなっています。あらためて、現時点でのご意見を伺えればと思います。

妹尾 仰るとおり、政府官僚の方や経済新聞の論説の方々などが、この本のタイトルを引用され話題にしていただきました。主流派経営学の方々からは批判も受けましたが、3 年たって本の内容は的中してしまいました。私はあの内容が当たってほしいと思って書いたのではなく、まさに「残念ながら」というしかありません。さらに問題は、「技術力で勝る日本が、事業で“負け続ける”」という現状です。

これは何故か。日本の企業が80 年代で成功を収めたモデルをあまりに信奉し続け、そのモデルを超えるリスクをとろうとしなかった。この本でも、はるかに特許数の多い日本の企業群がインテルにかなわない理由を挙げ、技術だけで勝とうとしては立ちゆかなくなる、特許の数が多いだけでは勝てないということを指摘したのですが、崖っぷちになるまで何も手をうたないで来てしまったということです。

―特許だけではなく、ビジネスモデルの面でも勝てないということですか。

妹尾 なまじ製品技術や製造技術に自信があるから、商品形態(アーキテクチャ)や事業形態(ビジネスモデル)の工夫をしてこなかったのが、ここへきてようやく最近考えざるを得なくなったということです。ソニーやシャープだけでなく、東芝、日立も事業別で見れば、家電関係は危ない。逆にソニーでも勝っている分野もある。企業全体で見るだけでなく、事業構造で見ないと間違えます。

オープン&クローズの戦略に注目せよ

その違いは何か。東大の小川紘一先生の研究などで明らかにされてきたことですが、日本がある製品分野で100%のシェアを取ってから、0%に落ちるまでの推移を示したグラフがあります。このグラフを私が会長を拝命している知財戦略本部専門調査会の「知財戦略2012」提案に大きく取り上げてもらいました。このグラフが示すのは2 つのパターンです。

ひとつは、100%から0%だんだん加速度的にシェアを10年かからずに落ちていくパターン。もうひとつは、10 年たっても6割以上のシェアをキープしているというもの。この2つの違いは何か。前者はフルオープン型。後者はオープン&クローズ型というモデルです。デジカメがいまだに60%のシェアを持っているのは、オープンの領域とクローズの領域を使い分けているからです。意図的であるかどうかは別にして、ですが(笑)。

日本企業の市場シェアの推移 小川紘一著『国際標準化と事業戦略』(白桃書房)1章より抜粋
日本企業の市場シェアの推移 小川紘一著『国際標準化と事業戦略』(白桃書房)1章より抜粋

今、世界で勝っているのはオープン&クローズの企業です。今、日本で流行っているオープンイノベーションという言い方は問題があると、私は思っています。日本でオープンイノベーションと言うとなぜか皆さんフルオープン型をイメージしてしまうからです。

オープンにして市場を加速的に形成すべき領域と、クローズにして市場から収益を得る領域、その使い分けや組み合わせのデザインが日本企業と欧米の勝ち組企業を分けているといえます。技術のあるなしではなく、技術の使い方の知恵のあるなしで勝負が決まっていると言えるのです。

ではなぜ日本は、「技術に」しか知恵をつかわないのか、「技術を活かす知恵」を開発することに知恵をつかわないのか。

数年前に知財の専門会長を拝命した時から、「知を活かす知」ということを言ってきました。「技術という知を活かす、ビジネスモデルや知財マネジメントという知」という意味です。海外企業は技術では多少劣っても、ビジネスモデルや知財マネジメントを工夫して勝ってきた。

このことは少し極端にいっているので、必ずしも「日本VS欧米」ではなく「日本の負け組VS欧米の勝ち組」というのが実際です。日本でも勝っている企業はいるわけです。そこのところをはっきりさせようということを、実証研究でやっているのが東大の小川紘一先生、モデル論でやっているのが私です。

アップルは「複合+複層」の価値形成モデル

― アップルは以前はクローズ戦略の企業と見られていましたが、実はオープン&クローズが非常に巧みだといわれます。

妹尾 アップルのやり方は基本的には変わらない。周辺の企業の戦略が変化してきているのです。アップルはクローズではなく、これも一種のクローズ&オープンです。どこをオープンにしているか、内部オープンです。どういうことか。私は、「複合体+複層的価値形成モデル」と呼んでいます。

機器のレイヤーではアップルは複合体を作った。iPod はメディアです。レコード、カセット、CD、MDと変遷してiPodの時代になった。この変化は10 年単位で世代を構成しています。EP/70 代、LP/60代、カセット/50代、CD/40代、MD/30代、iPod/20 代という具合に、世代別に10年おきにメディアの変化が起きています。カセットまでがアナログでA 面、B 面があります。今の若い人にB面というメタファーは通じない。AB がなくなったから、CDになった(笑)。

実は、さきほどの10 年ごとのリストの中で、iPod だけが一般名ではなく商品名なんです。これが本当のイノベーションを意味している。ゼロックス、味の素、ホッチキスなど、イノベーティブな製品は、商品名が一般名化するということです。

では、逆にiPodを一般名詞でなんと呼べばよいのか。店頭では携帯デジタル音楽プレイヤーと呼ばれていますが、実際は音楽だけではないし、プレイヤーといわれているがメディアでもあります。レコードからMD までは、メディアとプレイヤーは別でした。iPod ではじめて、メディアとプレイヤーが融合されたといえる。なおかつダウンロードしたコンテンツのストレージ機能も持っている。つまりiPod は「ストレージ+メディア+プレイヤー」です。複合体の価値形成というのはそういう意味です。

もうひとつは「複層」的ということ。iPod はiTunesStore と一緒になって、サービス・レイヤーとモノ・レイヤーで価値形成してきた。なおかつ2011年の6 月スティーブ・ジョブズの最後のプレゼンで、彼はパソコンのレイヤーからiCloudへのレイヤーへ重心を移行させると宣言した。クラウドというサービス・レイヤーが一気に加速されたわけです。これがアップルの複合、複層的価値形成モデルの全体像です。こういう産業の価値形成の全体像の透視図が、シャープやソニーなど日本の製造業に作れなかったということです。また、アップルはこのモデルを垂直統合で作りましたが、彼らの最大の競争力は40 数万種類のアプリケーションです。

これらは彼らがつくったものではなく、サードパーティが作ったものです。そのWin-Winの関係を可能にしたのが「内部オープン」です。すなわち、自分の生態系の中にオープン領域を作り、そこに外部を引き込んで競争力を生み出した。

これはインテルとまったく同じです。インテルは自分たちのMPU のパソコン市場を作るためにマザーボードを開発したけれど、マザーボードの技術はすべて台湾企業に公開した。

オープンとクローズの使い分けと組み合わせという意味では、まったく同じですよね。

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