揺れるシャープ再建、「鴻海案」支持の欺瞞 決断へ秒読み 鴻海派と機構派が対立


シャープ再建の行方が揺れている。支援するのは鴻海(ホンハイ)精密工業か、産業革新機構か。シャープ経営陣の「決断の時」が刻一刻と迫る。20日の取締役懇談会で議論したうえで、24日の取締役で決議する、という流れが濃厚だ。

2月4日以降、シャープ経営陣が鴻海による支援に心を固めたかのような報道で一色になったが、舞台裏を探るとそう単純な構図ではない。鴻海派と機構派の対立が生じており、足元では「鴻海案を支持する取締役には欺瞞がある」との指摘も出てきた。

「契約書」を報道陣に見せる鴻海精密工業の郭台銘会長(2月5日、大阪市のシャープ本社前)(写真=山田 哲也)

鴻海は1月30日、支援額を積み増し7000億円規模の再建案を提示した。一部のシャープ取締役、そして債権を抱える主要取引銀行がそれに乗り、約3000億円を出資するという機構の提案が揺らいだのは事実だ。

一部の取締役の間に「条件の良い鴻海案を蹴って機構案に乗ることは、シャープ株主に対する『善管注意義務違反』に問われかねない」という意思が働いたとされている。

しかし、真相はそう単純ではない。「高橋興三社長以下、シャープのプロパー系の取締役は、依然として機構案を支持し続けている。鴻海案を支持しているのは、主に金融機関系の取締役だ」(シャープ関係者)。

機構の支援効果は「1兆円」規模

結果、13人いるシャープ取締役会は、鴻海派と機構派に分断され、態度を鮮明にしない者もおり、「どっちに転んでもおかしくはない緊迫した状態にある」(同)という。

鴻海か機構、どちらに乗った方が、シャープの未来は安泰なのか――。シャープ経営陣によるスポンサー選びの視点は明確。しかし、その答えを、表面上の出資額の多寡では測れないことが「分断」の理由だ。

一部の取締役が鴻海案に傾いたポイントは、その出資額の多さ。鴻海は7000億円規模を拠出、一方、機構案は、シャープ本体への出資額は3000億円。この「7000億円対3000億円」という表面上の数字だけが独り歩きした。確かに「シャープ本体への出資」という観点ではそうだが、「支援総額」という観点では逆転する。

あまりにシャープ取締役の理解度が低いことに業を煮やした機構が、2月2日に改めてシャープへ内々に提示した「産業革新機構提案のポイント」という文章がある。

これによると、シャープ本体が成長投資のために使える出資額が「3000億円」。加えて、鴻海との液晶子会社である「堺ディスプレイプロダクト(SDP)」の売却で「1500億円」がシャープに入り、計4500億円を成長投資に使えることになる。そして、さらに続きがある。

機構案では、シャープが窮地に陥った元凶とも言える液晶事業を、シャープ本体から分離、将来は機構傘下のジャパンディスプレイ(JDI)と統合する予定だ。統合までの数年間、この旧シャープ液晶事業を立て直すために投資をする必要がある。そのための融資枠を「2000億円」用意するとある。これを先の4500億円に足せば、計6500億円となる。この時点で、支援効果は鴻海案の7000億円に匹敵する。

シャープ本体への出資額に差はあるが…
●シャープ支援の内訳

液晶事業の分離については、髙橋社長も2月4日の記者会見で「液晶と家電などそれ以外はまったく違うビジネス」「(今後は)2つの固まりに分かれての運営になっていく」などと語り、液晶を分離していきたい意向を強調している。鴻海案に乗って再建するとしても、シャープの液晶事業は鴻海傘下の液晶子会社、イノラックスと統合すると見られ、いずれにせよ、液晶事業はシャープから分離される命運にある。

機構案の特徴は、これらに加え、主力取引銀行を中心に「3500億円」の金融支援を求めていることにある。

昨年5月にシャープが発表した資本増強策では、主力取引銀行のみずほ銀行と三菱東京UFJ銀行に各1000億円、計2000億円のA種優先株を割り当てている。機構は、これらを無償で放棄することに加え、2行が抱えるシャープへの債権を「デット・エクイティ・スワップ(DES)」で削減するなどして、計最大「3500億円」の支援を金融機関に求めている。

機構の文章によると、先の6500億円に金融機関の支援を考慮すると、「(機構案の)財務支援の効果は1兆円に上り、メディアで報道されるホンハイの6000億円を大きく上回ります」とある。最終的に鴻海は支援額を積み増して7000億円規模となったため、数字に食い違いがあるが、それでも、支援総額の規模という観点では機構が上回ることに違いはない。

鴻海案賛成が「善管注意義務違反」の可能性も

確かに、鴻海がいくら出すのか、機構がいくら出すのか、という議論に拘泥しては本質を見誤る。「7000億円対3000億円」という比較は「木を見て森を見ず」であり、どちらの条件が良いかという答えを出す作業は、極めて難しい。そのことに加え、鴻海による支援案が金融機関の支援を求めていないことが、事態をさらに複雑にしている。

前述の通り、機構案は金融機関に「痛み」を求める内容。翻って鴻海案では、優先株を簿価で買い取るとしており、金融機関にとっては都合が良い。「だから鴻海案に賛成しているのが、メーンバンクであるみずほ銀行出身の取締役と、その仲間」とシャープ関係者は言う。

仲間には、東京三菱UFJ銀行出身の取締役と、みずほ・東京三菱UFJの2行も出資する投資ファンド、ジャパン・インダストリアル・ソリューションズ(JIS)から来ている2人の社外取締役、すなわち、JISの住田昌弘会長と斉藤進一社長も含まれると見られる。

JISは、昨年、みずほ銀行と三菱東京UFJ銀行が計2000億円のA種優先株を引き受けた際、それよりも条件の良いB種優先株を250億円引き受けている。この配当は7~8%と破格。機構案では、これを普通株へ転換するよう求めており、「旨味」が消えるという点ではJISも痛みを伴う。

ただし、これらはあくまで「投資家」としての論理。シャープの株主や、シャープ経営陣としては、負債が圧縮されるという点で機構案の方が良い、という論理もある。

企業法務に詳しいある弁護士は、こう指摘する。「仮に、銀行やファンドの意向を反映して、それらと関係するシャープ取締役が鴻海案に票を投じるのであれば、そのことが逆に『善管注意義務違反』に問われる可能性もある」。

機構の関係者もこの点に憤りを隠さない。「シャープの既存株主からすれば、銀行やファンドが自分たちに都合の良い方を選んで逃げ切るようにも映る。金融機関は、ほかの株主のためにもシャープのためにも、『貸主責任』を取るべきで、シャープのために鴻海案だ、と主張するのは欺瞞にほかならない」。

「特別利害関係人」という新たな火種

この利害関係をめぐっては、新たな火種も浮上している。会社法が定める「特別利害関係人」だ。

会社法では、取締役がこうした自らに都合の良い判断を下さないよう、「特別利害関係人は、取締役会の議決に加わることができない」と規定している。銀行出身の2人のシャープ取締役は、銀行を辞めているため、利害関係を立証することが難しい。しかし、JISから来ている2人の社外取締役については、JISの現職の会長と社長を務めているため、鴻海案か機構案かを決める議決では特別利害関係人に当たる可能性がある。

実際、シャープの顧問弁護士事務所が、「JISの社外取締役は特別利害関係人にあたる可能性がある」としてシャープに意見書を出しており、2月4日の取締役会では、「JIS入り」の13人での議決と、「JISなし」の11人での議決、2通りをとっている。

この時の議案は、「鴻海案と機構案の2つを検討していく」という内容で、2通りの結果は変わらないため問題にはならなかった。しかし、鴻海か機構か、どちらかを選ぶ、という議決においては、JISの2人が「キャスティングボート」を握る可能性もある。

JIS入りとなし、2通りの議決をとって、結果が変わった場合は、どうなるのか。この点について、前出の弁護士は「そうはならないよう、事前に取締役会で議論を尽くし、どちらかを選ぶのが通例」とする。いずれにせよ、JISの取締役を議決に参加させるか否か、という攻防戦も水面下では繰り広げられており、シャープ再建の行方はますます混沌の方向へ進んでいる。

「自らの身をとしてでも」と高橋社長

もう1つ、鴻海案と機構案で決定的に異なる点がある。それは、「高橋社長以下、経営陣の退陣を求めるか否か」という処遇面。機構は経営陣の刷新を求めているが、鴻海は経営体制を維持すると約束している。

高橋社長は、鴻海案が急浮上したその日の記者会見で、「まず構造改革を全力でやり切ることが一番の経営責任。その先は、今の時点で考えていない」と語り、「続投に意欲を示した」と報じられた。仮に、自らの処遇を理由に鴻海案に票を投じるのであれば、それも「欺瞞」だとのそしりを免れないだろう。

しかし高橋社長は側近に、こうも語っている。「自らの身をとしてでも、何としてもシャープが生き残る道を選びたい」。

この言葉が本心であれば、金融機関やファンドのため、あるいは処遇のために決断が左右されるようなことがあってはならない。それは、高橋社長以外の取締役にも言えることだ。

既存株主や従業員、顧客のために最善の道はどちらなのか。極めて難しい判断が、13人の取締役に委ねられている。

2月4日の決算説明会で「1カ月以内に2社のどちらかを選択する」と話すシャープ髙橋社長(写真=都築 雅人)

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