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なぜスタートアップ起業家は血まみれになりながらファーストペンギンを目指すのか

みなさんはファーストペンギンという言葉をご存知ですか?
スタートアップの起業家なら聞いた方も多くいるかと思いますが、とりあえず簡単に説明したいと思います。

ある集団の中で、危険や困難へ最初に飛び込み、安全性を証明する者のこと。
ペンギンの群れの中で、シャチやトドがいるかもしれない海に飛び込んで、身をもってその海が安全であり、魚が得られることを証明する「最初のペンギン」になぞられた表現。

Hatena Keywordより

つまり未開拓の市場にチャレンジする先駆者のことをいいます。

未開拓の市場に挑戦することはとてもリスキーなことであり、当然事業が成功する確率も低くなってきます。
ですが、スタートアップの起業家は率先してファーストペンギンになろうとします。
また、シリコンバレー等の投資家たちは彼らを支持します。
その理由は一体なぜなのでしょうか。
今回はその理由を紐解いていきたいと思います。

先行者は市場を独占できる

スタートアップの起業家たちが率先してファーストペンギンになるのは、未開拓の市場を一番早く開拓した先行者はその市場を独占できる、という点が大きく関係してきます。

市場を独占することを重要視する投資家の一人、ピーター・ティール

市場を独占することを重要視する投資家の一人、ピーター・ティール

 

 

 

 

 

 

 

 

 

市場を独占することを重要視する投資家も多く、あのPayPal創業者の一人で初期のFacebookへの投資でも有名な投資家ピーター・ティールも市場の独占の重要性を訴える一人です。
実際に彼は、多くの投資を行う中で、完全に独立した国家を作るという一見無謀にも見えるプロジェクトに投資したりもしています。

ファーストペンギンは横でなく縦で考える

新規市場を開拓するファーストペンギンたちの思考をできるだけわかりやすく説明していきたいと思います。

垂直に伸びるのが垂直的進歩、横に伸びるのが水平的進歩

垂直に伸びるのが垂直的進歩、横に伸びるのが水平的進歩

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まず右の図を見てください。
これはファーストペンギンになろうとする起業家の思考を図にしたものです。
彼らはあくまでこの図でいうと垂直的な進歩を重要視しています。

既に存在している事業の複製はあくまで水平的な進歩でしかありません。
水平的な進歩を一言で表すとグローバリゼーションになります。
具体的に言うと一定の地域で流行したものをさらに広範囲に広げることをいいます。
これは日本のスタートアップによくみられる事例で(海外で流行ったサービスと同モデルの事業を日本で展開すること。私たちもこの部類ですw)日本から世界的な企業が輩出されない理由のひとつとして挙げられたもしています。
国際展開は多くの人が大切なことと信じていますが、あくまでこれは水平的な進歩でしかないという考えです。

また垂直的な進歩はあくまで0の状態から事業を作り出す、つまり必然と市場を独占することになります。
また人類にとっても大きな進歩だと考えられています。
蒸気技術など多くの技術が生み出された産業革命時に多く見られたもので、彼らはこれを重要視しているわけです。

→配信元で見る

 

天才たちが作ったビジネスモデル

Facebookの勢いがとまらない。米国のみならず,全世界100ヶ国以上でSNSトップシェアとなっており,その会員数は3.5億人を超えている。しかもその50%は毎日訪問し,毎日700万本以上の動画と1億枚以上の写真が投稿されている。そしてそのパワーはついにマネタイズにもあらわれてきた。複数のベンチャー投資筋からの情報 (2009/7, 記事:Solicon Alley Insider) として明らかにされたFacebookの2009年収益予想は次のようものだ。(1ドル90円換算)

・セルフ広告売上  200百万ドル (180億円)
・ブランド広告売上  125百万ドル (112.5億円)
・マイクロソフト提携広告売上  150百万ドル (135億円)
・バーチャルグッズ売上  75百万ドル (67.5億円)

このリーク情報に基づくと,Facebookの収益構造は,広告系売上とアプリ系売上のふたつで成り立っており,広告系はさらに3つのタイプに分類されていることがわかる。

1) 広告系売上:広告系売上はFacebookに訪問する3.5億人のユーザーに対する純広告で,広告主は企業であり,つまりB2Bモデルだ。またそのうち,直接販売モデルが「セルフ広告売上」と「ブランド広告売上」,間接販売モデルが「マイクロソフト提携広告売上」だ。

◎セルフ広告:AdwordsやOvertureと同様,広告主は広告代理店を経由することなく,直接ウェブ上から広告出稿できる仕組みで,Facebook Adsとネーミングされている。入力形式はAdwordsなどのリスティング広告と類似しているが,ユーザーインターフェースはより洗練されている。ちなみにAdwordsとの相違点は以下の通りだ。・個人ターゲット属性(性年齢,学歴,勤務先,言語,交際状況等)を指定できる。誕生日の人だけを対象とすることも可能・ソーシャルグラフ属性(ファンページ,イベント,グループ,アプリケーションつながり,友人つながり)を指定できる・CPM(表示回数あたり),CPC(クリックあたり)を選択し,それに対する入札金額を指定できる

◎ブランド広告:これは日本でいうタイアップ広告で,Facebookに直接問い合わせて統合的なキャンペーン広告を作成するものだ。機能としては,ファンページを機軸にFacebookアプリとFacebook広告を組み合わせたものになるのが一般的で,予算はページ上では100万円からとなっている。

◎マイクロソフト提携広告:文字通り,マイクロソフトと提携し,彼等の提供するバナー広告やスポンサードリンクを表示するものだ。なお契約は2006年に締結されたものだが,背景にグーグルとマイスペース(当時は圧倒的にNo1のSNSだった)の独占契約があり,対抗策としてマイクロソフトが動いたものだ。

2) アプリ系売上:アプリ系売上は,SNS本体ではなくFacebook直営コマースショップであるGiftShop等で販売される仮想グッズの売上が中心だ。つまりFacebook会員からの直接売上,B2Cモデルとなっている。

【GiftShopの取り扱い商品】

ここで注目されるのは,友人へプレゼントする仮想グッズ(Virtual Gifts,E-Cards,Charity)だけでなく,音楽MP3ダウンロード販売(Music and MP3s)や物販(Real Gifts)まで商材を広げ始めている点だ。またSports系仮想グッズなどでブランド・タイアップ系ギフトが増えている点も見逃せない。(ただし日本では仮想グッズのみ)

では,このFacebookの収益構造をビジネスモデルで先行している日本のSNSと比較してみよう。まずSNS単体での比較,さらにSNSエコシステム全体での比較を通じて,日米のSNSビジネスモデルを徹底分析したい。

1) SNS単体での収益比較:まず,SNS単体でのビジネスボリュームを比較してみよう。日本の代表選手としては,おなじみのmixi,GREE,モバゲーだ。3社発表の四半期決算から直近1年間(2008/10 – 2009/9)の売上高を,前述Facebookの2009年度売上予測と比較したのが次の表だ。

会員規模で見ると,Facebookの方がはるかに巨大で日本の各SNSの20倍を超えているが,売上規模からいくとそこまでの差はなく,最も類似しているmixiとの比較で5倍弱であることがわかる。ARPU(会員あたりの月売上,Average Revenue per User)で比較してみるとわかりやすい。Facebookは日本のSNSと比較すると,広告ARPUで20-40%程度,会員ARPUで2-50%程度に留まっている。そのため,会員1人あたりの月売上で約12円と,ARPUが最大であるGREEの112円と比較すると11%となっている。

理由はいくつか考えられるが,大きなポイントとしては以下の3点だろう。

・Facebook会員は全世界的に成長しており,日本のSNS会員と比較して平均収入がかなり低い
・Facebookはアプリをオープン化しているのに対して,日本のSNSは自社売上
としている
期間は2008/10-2009/9
・日本のSNSは,90%以上が携帯アクセスであり,PCと比較して会員課金が容易である

2) SNSエコシステムにおける収益比較:では,もう少し巨視的な観点からビジネスモデルを比較するために,それぞれのエコシステム全体(アプリ,課金サービスなどを含む)に対象を広げて検討してみよう。

まず,広告売上においては,日本の場合,広告収入の大部分が広告代理店経由となっている点が異なっている。ここでは代理店マージンを20%と仮定して算出した。そしてもう一点,日本のSNSが広告売上に分類している「アフィリエイト広告」はFacebookの「オファー広告」に相当するもので,実質的には仮想グッズと同様にアプリ売上に分類したほうがわかりやすい。そのためモバゲーとGREEのアフィリエイト売上をアプリ売上の方に移行した。(GREEは広告売上におけるアフィリエイト比率を公開していないが,コンテンツやビシネスモデルが酷似しているため,モバゲーに準じる比率(44%)と仮定した)

アプリ売上は,オファー広告売上,仮想グッズ売上,会員フィー売上に分類される。この中で重要なポイントはFacebookにおけるアプリ系のエコシステム全体の売上をどう見るかだが,ここでは2010年1月に INSIDE NETWORKが発表したInside Virtual Goods調査に基づき,2009年仮想グッズ市場全体を10億ドル(900億円),PV数推定からそのうち70%がFacebookエコシステムによるものとして,900億円×70% = 630億円と仮定した。
ちなみに2009年仮想グッズ市場の900億円には,Facebookの仮想グッズ売上75億円やソーシャルゲーム・デベロッパー売上490億円(うち推定で,Zynga250億,Playfish75億,Playdom60億)などが含まれている。

結論としては,エコシステム全体で見ても,Facebookは,広告ARPUで10円,会員ARPUで15円と,いずれも日本のSNSと比較して1/4程度に留まっており,会員収入や携帯比率を考慮したとしても,ビジネスモデルが未成熟であることがわかる。逆に言うと,Facebookの収益力にはまだ相当の伸びしろがあるということだ。

これは例えばGoogleとの比較でも鮮明となる。例えば米国においてFacebookはGoogleを訪問者やページビューで上回りつつある状況だが,2009年売上を比較するとGoogle 2.1兆円,Facebook495億円と,売上規模で2%程度に留まっているのがわかる。SNSのCPM比率が低く検索エンジンの1/10程度だとしても,まだFacebookまわりにはきらめくようなビジネスチャンスが眠っていることは確かだろう。

では最後に,Facebookと日本のSNSの収益ドライバーを比較し,それぞれのマネタイズ成熟度とその可能性を探ってみたい。

収益ドライバーの項目としては,広告系を「純広告」「タイアップ広告」「セルフアド広告」とし,アプリ系のうち会員サービス(B2C)を「会員フィー」「仮想グッズ販売(アフィリエイト広告含む)」「物販・音楽ダウンロード」,アプリ系のうちパートナー企業向けサービス(B2B)を「課金決済サービス」「アプリ認定サービス」「仮想グッズ提供サービス」(モバゲーのアバター提供など)とし,それぞれの成熟度については,筆者見解で「成熟」「成長」「着手」「未開拓ないし外部」の4段階で整理してみた。

(このデータは2009/9までの実績に基づいているため,mixiやモバゲーのオープン化は盛り込んでいません)

これを見ると,Facebookは会員フィーを除く全ドライバーに着手しはじめており,それぞれが成長段階に来ていることが一目でわかり,これからの収益急拡大が予想される。Facebookのさらなる収益拡大のキーとなるのは次の5点だと考えている。

・広告ターゲティングの精度向上と広告主獲得のための宣伝活動
・仮想グッズに加え,物販・音楽ダウンロードまで手を広げたコマースショップの拡大
・本格的に利用されはじめた独自課金サービス Pay for Facebook の拡大(課金率30%と極めて高収益)
・オプトインによる外部コマース・アクティビティのユーザー共有(Beaconはオプトアウトのため失敗)
・プレミアム会員,特にブランド広告ニーズのある企業向け有料会員サービス

トヨタのビジネスモデル

 


 

 トヨタのビジネスモデル分析

 
トヨタは「ジャスト・イン・タイム」「かんばん方式」などに象徴される革新的なビジネスモデルの改善に取り組み続けてきました。また「いつかはクラウン」という有名な標語がありますが、そうしたマーケティングなども含めた「ビジネスの仕組みづくり」に強みを持っています。


いつかはクラウン


この「いつかはクラウン」というキャッチコピーの裏に隠れていた戦略は大体このような感じです。CMなどでこれを目にした顧客に「自分もいつかは高級車のクラウンに乗ってみたい」と思わせて、まずは安くて手の届きやすい別の車種を購入してもらいます。そして徐々にランクが上の車へ買い替えていってもらうのです。顧客の収入の増加に合わせて、ディーラーが「次はこちらなどいかがですか?」と上位車種を随時提案していくイメージです。


 マーケティング戦略

自動車は一つ企画・開発するのに結構な時間がかかるので、市場のニーズを先読みする動きが必要となります。大衆車であれば「安全・安心」「安さ」など、ある程度決まったキーワードがありますが、高級車は簡単にいきません。自動車に対する強いこだわりを持った顧客が多いですから、5年前のニーズに合わせた車を製造しているようでは、顧客が離れていってしまいます。
そうした意味では、求められているものを探るマーケティングではなく、自分たちがブランド(ニーズ)を作るスタイルのマーケティングが求められていると言えるかもしれません。

 


ニーズ


 いまの時代は消費者の嗜好が多様化しているため、そのニーズも細分化されました。これはトヨタに限った話ではありませんが、メーカー各社が特に海外展開の面で、現地の細かいニーズに合わせた商品展開を行うことを明言しています。

出典lexus.jp

 

レクサス


 高級車ブランド「レクサス」の成功など、マーケティングに強い、より広い意味では「ビジネスの仕組みづくりに強い」点が、トヨタの武器と言えるでしょう。
トヨタがレクサスを従えて高級車市場に進出した時、既存のディーラー網とは全く異なるチャネルを一から構築したのは有名な話です。レクサスの高い収益性に魅せられてレクサスを売りたがるディーラーは多かったが、トヨタはディーラーの選定にあたって極めて厳しい基準を適用した。レクサス自体が訴求する価値、そしてその価値に反応する顧客が期待する高水準の接客・アフターサービスを一貫して提供することをディーラーに要求したというわけです。その結果、アメリカでは1万件の応募に対し、レクサスの販売を認められたディーラーはわずかに130にとどまったといいます。
さらにレクサスは、各ディーラーの社員と顧客に定期的にヒアリングや調査を行い、ディーラーのパフォーマンスをモニタリングしている。パフォーマンスが悪い場合には、トヨタの社員が直接ディーラーに出向いて、問題の解決に当たる。こういった一連のマネジメントがしっかりと仕組み化されているのはいかにもトヨタらしいです


グローバル化とセグメンテーション


 もともとアメリカのディーラーは接客やサービスに無頓着なことが多いようで、レクサスの「おもてなし」精神はアメリカ人に新鮮に映ったらしいです。トヨタが出す車なら品質は間違いないし、その上サービスも優れているというのなら、もうこれは買わない手はないという具合で、レクサスはアメリカでそれなりの成功を収めました。以上がグローバル化と、顧客セグメンテーションというビジネスモデルの一つだと言えます。

トヨタ生産方式は、トヨタ自動車の生み出した、工場における生産活動の運用方式の一つです。現在では多くの企業がこれにならった方式を取り入れており、工場等の製造現場やそれに付随するスタッフ部門だけでなく、間接部門でも取り入れている企業も見られます。トヨタ生産方式は第二次世界大戦前のアメリカの自動車産業におけるライン生産方式などを研究し、豊田喜一郎らが提唱していた考えを大野耐一らが体系化したものです。また、戦争中に熟練工を徴兵されたことによる生産力の低下を補う方法として開発されていた経緯もあります。トヨタ生産方式では、ムダを「付加価値を高めない各種現象や結果」と定義しています。このムダを無くすことが重要な取り組みとされます


7つの無駄


 このムダを無くすことが重要な取り組みとされます。ムダとは、代表的なものとして以下の7つがあり、それを「7つのムダ」と表現しています。
1.作り過ぎのムダ
2.手待ちのムダ
3.運搬のムダ
4.加工そのもののムダ
5.在庫のムダ
6.動作のムダ
7.不良をつくるムダ
上記「7つのムダ」を排除し、極力在庫を持たず、必要なものを、必要な量だけ、必要な時にジャストインタイムで生産するなどの特徴を持ち、使用した部品の補充を知らせる「帳票」をかんばんということから、かんばん方式とも呼ばれる。また、多能工という人の作業者が複数の工程の作業をこなせるようにトレーニングすることがあります。これにより生産負荷が低い工程から高い工程へ人員を柔軟に移動させ、負荷の平準化を常に行えるようにします。また、1人で複数の加工機械を受け持ち、工程の少人化を実施する。「無駄の徹底的な排除」を実現するための方法の一例として、「自動化」・「機械化」の意味合いを持つ言葉である、自働化がある。無駄は排除しなければならないが、合理化を進めるあまりに従業員の人間性やインセンティブを無視してはならない。このことから、トヨタ自動車では自動化の事を自働化と呼んでいるそうです。

「つまらない仕事はロボットにさせるべき!」―ホリエモンが考える、すき家問題の本当の論点

ホリエモンこと堀江貴文が、メルマガに寄せられた質問に答えるYouTube番組「ホリエモンチャンネル」。この中でホリエモンは、ブラック企業への対処法と、私たちが理想とすべき働き方を話しています。

 従業員に過酷すぎる仕事を与えたことで話題になったすき家問題。この騒動のおかげで「ブラック企業」という言葉が以前よりも世の中に浸透し、不当な労働を強要することへの警戒が強まりました。私たちは、ブラック企業問題をどう考えればいいのでしょうか?

価値がある仕事だけをやれ!

 

 「堀江貴文のQ&A vol.385~安月給では働かない!?~」で取り上げた質問は、「すき家の労働問題では、『仕事だから文句を言うな』派と『ブラック企業反対』派がそれぞれの正義について議論していると思います。労基法がなければこの2つのどちらが正義か争うことに意味があると思いますが、現実には労基法があります。なので、ただ単に労基法を変えるべきかどうかについてのみ議論すればいいのではないでしょうか?堀江さんの『正義』についての意見を聞かせてください」というもの。
 この質問にホリエモンは、「すき家の労働問題については、嫌だと思うならバイトの人が辞めればいいだけだと思います。彼らがこんな条件では働けないと思って実際に働かなければ、労働条件も良くなるでしょう。正義について言えば、例えば検察かなんかは今の法律を守るのが絶対的正義だと思っているので、株式分割で多くの人が簡単に株を買えるようになっても、それを正義を乱す行為だと思うわけです。でも、これってただの思い込みだから宗教みたいなものだよね……」と経験を基に回答。
 正義とは絶対的なものではなく、それぞれの境遇や教育によって全く異なります。なのでホリエモンは、「正義について考えても仕方がない。そんなことするくらいだったらとにかく手を動かせよ」とバッサリ断言します。
 すき家問題については、「つまらない仕事なんてするべきではないのだから、コンビニやすき家なんて辞めちまえ」とこれまたバッサリ。働く人が減れば、給料アップなど労働条件が改善されるか、その仕事を人ではなく機械にさせるかのどちらかになります。ホリエモンは、「究極的にはつまらない仕事は、全てロボットがやるようになるべきだ」と、仕事は不満を持ちながらやるべきでないと主張します。
 ホリエモンの主張はとても単純です。「楽しいこと、価値があることをやれ」。それだけです。たしかに私たちは、何が正義か、何が社会にあるべきかをまず考えてしまいます。そうではなく、その仕事が自分にとって楽しいか、自分が求める価値を与えてくれるかだけを考えて行動できれば、すき家問題も起こらなかったのかもしれません。「仕事はやらなきゃいけないから仕方なくやるもの」という認識をみんなが持たなくなるのが、ホリエモンにとっての正義なのかもしれませんね。
 「堀江貴文のQ&A vol.385~安月給では働かない!?~」では、ホリエモンがステーキけんなどの社長で知られる井戸実さんと、人と仕事のつきあい方について語ります。ホリエモンが見据えるこれからの仕事像の一端を垣間見ることができますよ。今回も盛りだくさんのホリエモンチャンネル。仕事の息抜きに、ぜひ見てください!

タカタ、債務超過の懸念…自動車メーカーの利益まで蝕み始める、いまだに「原因調査中」

タカタが存続の危機に立たされている。2015年4-12月期(第3四半期累計)の連結決算は増収増益となり、通期業績見通しではエアバッグのリコール関連費用を特別損失に追加計上したものの、最終利益50億円に黒字転換する見通しを据え置いた。
一方で、米国当局の指導によって自動車メーカーによるタカタ製エアバッグリコールは依然として拡大している。原因が判明していないことから関連費用は自動車メーカー各社が負担しているが、これらのコストはいずれタカタに求償されると見られ、潜在的に大きな負債を抱えたタカタは正念場を迎えることになる。

リコール対策費の見積もり「困難」

「タカタとの話し合いについては一切明かせないことになっている」(自動車メーカー役員)

タカタは1月29日、エアバッグを納入している自動車メーカーの調達担当役員を集めて説明会を開いたものの、秘密保持契約を結んでいる模様で各社とも内容を明かしていない。タカタは会合の開催は認めたものの「会合に関して開示すべき事項はない」としている。会合でタカタからは、今後のリコール対策などを中心に説明があった模様で、一部で報じられたような自動車メーカーにタカタが経営支援を要請することまで踏み込んだ話はなかったと見みられる。

昨年12月末にタカタ製エアバッグの不具合が原因とみられる運転手の死亡事故が発生したことを受けて米国高速道路交通安全局(NHTSA)は、追加で500万台をリコールするよう自動車メーカーに指導することを決めた。タカタ製エアバッグによる死亡事故は全米で9件目、世界で10件目。

増え続けるリコール台数にタカタの経営危機は一段と深まるが、表面上のタカタの業績は順調だ。15年度第3四半期累計の売上高は前年同期比15.7%増の5434億円、営業利益が同37.7%増の321億円、四半期損益が前年同期の324億円の赤字から25億円の黒字に転換した。10-12月期でも増収増益を維持している。

通期業績予想も売上高が同12.0%増の7200億円、営業利益が同21.4%増の400億円を予想。最終利益が前年同期の295億円の赤字から今期は50億円の黒字となる見込みを変えていない。タカタのリコール問題が世界的に拡大するなかで業績が安定しているのは、自動車メーカーが自主回収して予防的措置として無償修理する調査リコール費用を、タカタが計上していないためだ。同社は「(同社に)製品の瑕疵が認められた場合、調査リコール費用を一定割合負担する可能性がある」としながらも「現時点では原因について調査中で、負担金額を合理的に見積もることは困難」としている。
リコールは通常、事故などの未然防止のため、不具合の原因を特定してから製品を回収・無償修理する。原因が特定されなければ再発する懸念があるためで、原因に応じて自動車メーカーとその部品に関連するサプライヤーなどがリコール費用を分担する。

調査リコールとは、原因が特定されていないものの、安全を確保するため自動車メーカーが予防的に実施する不具合対策。このため、原因がはっきりと特定するまでは、自動車メーカーの負担でリコールして、のちほど不具合の原因が特定された段階でサプライヤーと交渉して負担割合を決める。タカタエアバッグが異常破裂した原因は第三者機関を含めて調査されているものの、依然として判明していない。

自動車メーカーの業績にも影響

タカタの業績が安定的に推移している一方で、エアバッグのリコール関連費用を肩代わりしている自動車メーカーの業績に影響が及んでいる。タカタ製エアバッグの採用割合がもっとも高いホンダが発表した15年10-12月期の連結決算の営業利益は、新車販売が順調に推移したなかで同22.3%減と大幅減益となった。約500万個分の追加リコール費用を計上したためだ。15年4-9月期までは同7.9%増と増益だったのが、同4-12月期(第3四半期累計)では一転、同3%減と減益となった。リコール対策を含む品質関連費用は約3200億円に達して、新車販売の増加やコスト削減による増益効果を品質保証費用の増加で打ち消したかっこうだ。

タカタ製エアバッグのリコールは世界で5000万台を超えており、リコール関連費用の多くを自動車メーカーが肩代わりしていることから、タカタの潜在的な負債は膨らみ続けている。自動車メーカーが一部負担したとしても、タカタの負担は3000億円に達するとの見方も出ている。タカタの純資産は約1450億円で、自動車メーカーが一斉に求償した場合、債務超過に陥る可能性の現実味は増してきた。

ただ、グローバルなエアバッグメーカーは、世界でもタカタ、オートリブ、ZF TRWなど、数社にとどまる。自動車の安全装備を充実するため、車両1台当たりのエアバッグ搭載数は増え続ける傾向にあり、仮にタカタが倒産する事態に陥ると、自動車メーカーの自動車生産に支障が及ぶ。このため、自動車メーカー各社はタカタから要請された場合、経営支援することも視野に入れる。

ただ「財政的に支援するならトップには責任を示してもらう」(自動車メーカー役員)と、タカタの高田重久会長兼社長の辞任を求める声はある。タカタは1月29日に開いた自動車メーカーに対する説明会合に関するコメントで、「会長兼社長の辞任に関する報道があったが、現時点で辞任する意向はない」としている。

当面は、エアバッグの不具合の原因について、タカタや自動車メーカーが調査を要請している第三者機関などの調査結果待ちの状態が続く見通し。膨らみ続ける潜在的な負債を抱えたタカタの先行きを、世界の大手自動車メーカーも注視している。

シャープ、デッドライン大詰め…社員を待つ過酷なリストラ、台湾企業か革新機構か

過去の増資引受拒否に対するわだかまりを捨て、7000億円といわれる巨費を投じて丸ごと買収し、現経営陣の続投と若手社員の雇用確保を保証するという台湾資本の鴻海(ホンハイ)精密工業の軍門に降るのか。それとも、国の信用力をバックに日本の電気業界の再編を進める官民ファンド「産業革新機構」に身を委ねるのか。今月末とされるデッドラインへ向けて、残された時間は少ない。

 はっきりしているのは、どちらを選んでも、シャープの社員を待っているのは、かつて経験したことのないような過酷なリストラだということである。いずれの道も、茨の道であることに変わりはない。

 シャープが2月4日に公表した2016年3月期第3四半期決算をみると、同社の経営は、巨額の赤字垂れ流しに一向に歯止めをかけられないでいる。第3四半期までの累計の最終損失額は1083億円と、前年同期(72億円の赤字)を大きく上回った。通期でも最終赤字になれば、過去5期で4度目の最終赤字である。

 こうしたなかで、みずほ、東京三菱UFJの主力2行は昨年来、巨額の金融支援に応じてきた。両行は早くから、シャープが自力で年度末(16年3月末)を越える資金を新たに調達することは困難と判断しており、2月中に身売り話を確定するよう迫っていた。

 2つの案の違いは、ホンハイ案が、本命視されていた産業革新機構案に対抗するため、表面的に大盤振る舞い色の強いものとなっている点だろう。

 たとえば、ホンハイ案はシャープ買収金額を約7000億円と、機構案(3000億円)の2倍以上に設定しているとされる。このなかには、主力2行が保有するシャープ株の購入資金も含まれているという。機構が髙橋興三社長らシャープ経営陣を引責辞任させて「経営責任」を明確にすることや、「貸し手責任」と称して主力2行に3500億円規模の追加金融支援を迫るとしているのに対し、ホンハイはそうしたけじめをまったく求めていない。さらに、ホンハイ案には、機構の国有化計画と違い、シャープの解体を前提にしていないという特色もある。

 これらの点から、ホンハイ案のほうが、機構案に比べて経営陣や銀行にとって受け入れやすいプランとなっているのは事実だろう。

 そもそも、9割の資金が公的資金という機構によるシャープ国有化は、政府による大企業の救済にほかならない。資本主義の原則を無視する行為で、あってはならないことだ。
 とはいえ、ホンハイ案もバラ色には程遠い。シャープをバラバラに解体しないとしながら、太陽電池部門を売却する方針が後になって明かされたし、雇用維持と言いつつ40歳代以上の中高年は対象外といった話も飛び出した。目先は別としても、1~2年もすればシャープ内部には「こんなはずではなかった」という声が次第に増えるだろう。

明らかにされない「本当の狙い」

 ホンハイのシャープ買収の本当の狙いが明らかになっていない点も問題だ。アップルのiPhone製造で知られるように、ホンハイのビジネスモデルは自社ブランドの消費者向け製品を持たず、製造だけを請け負うという、日本ではあまり馴染みのないものだ。

 ホンハイが今後もそのビジネスモデルを守り、シャープ買収で製造能力の一段の拡充や、製造できる製品の多様化を狙っているだけならば、シャープのブランドや独自技術の開発力は無用の長物になるだろう。早晩、切り売りの対象になっても不思議はない。

 逆に、ホンハイ自身がシャープブランドを使って、消費者向けの市場に参入するつもりならば、ブランドを管理する機能はホンハイに移り、シャープはシャープブランドに関する当事者能力を失うことになる。

 結局のところ、ホンハイの買収を受け入れても、国有化に頼っても、待っているのは、シャープ自身がこれまで独力で成し遂げられなかった厳しいリストラ戦略だ。

 最終的にどちらの案を選ぼうと、これまで以上に大胆なリストラを避けては通れない。1、2年もたてば、「シャープ」の名前が残っていたとしても、今とは似ても似つかない会社に変わっているはずである。

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「仕事はうまくやらなくていい」

30年前、一軒の寿司屋がはじめた回転寿司チェーン「スシロー」。利益を二の次に、ひたすら「味」にこだわり続けた結果、業界トップ、年商約1200億円、年間来客数のべ1億2000万人の国民的企業に成長しました。はげしい競争を勝ち抜いてきた「スシロー」の仕事哲学・商売哲学をまとめた本『まっすぐ バカ正直に やり続ける。』から、一部をご紹介していきます。

30年間成長し続け、
業界トップに上り詰めた「理由」

はじめまして。
回転寿司チェーン「スシロー」の社長を務める豊﨑賢一です。

おかげさまで、スシローは、2013年度の売上が1193億円と過去最高を記録。創業以来30期連続増収するとともに、2011年度から3年連続で業界売上高ナンバーワンを達成することができました。

「成長の秘訣は?」
よく、そのようなご質問をいただくのですが、私の答えはシンプルです。
まっすぐ、バカ正直に、やり続ける――。
この一言に尽きる、と思うのです。

スシローは、回転寿司チェーンのなかで唯一、寿司屋にルーツをもつ会社です。
五島列島出身の創業者・清水義雄が、大阪の下町・阿倍野につくった「鯛すし」というお店が原点。庶民的なお店が並ぶ町でしたから、それほど高いお金はいただけませんが、「味の鯛すし」と呼ばれるほど、新鮮でよいネタを出すお店でした。

その「鯛すし」に、私がアルバイトで入ったのは18歳のときのことです。一流の寿司職人になって、30歳くらいで独立することを夢見ていました。

ところが、その翌年、清水は隆盛の兆しをみせていた回転寿司に参入。私も、回転寿司で働くことになってしまいました。そのときは、まさか1200億円企業になるなんて夢にも思いません。当時は、まだまだ回転寿司の評価が低い時代。「安かろう悪かろう」の代名詞のように見られていましたから、正直なところ回転寿司で働きたくはありませんでした。

お客様を驚かせたときに、
「値打ち」は生まれる。

しかし、清水は「安かろう悪かろう」とはまったく違う商売を志していました。寿司職人としてのプライドにかけて、「味」に対して一切妥協をしなかったのです。
「それ、値打ちあるんか?」
これが、清水の口グセでした。

かつて、私は安い魚を大量に仕入れたことがありました。そのままネタには使えませんが、うまく加工すれば商品化できると考えたのです。

ところが、出来上がった寿司を見た瞬間、清水は「そんなもん、値打ちあるんか?」と悲しい顔をしました。「仕入れ値が安いから、利益は出ます」と応えると、「そんな利益はいらん」と一喝。そして、こう続けました。

「しょうもないもんを売るな。ええか、いくら安くたって、しょうもないもんだったら、誰も喜ばない。逆に、高くてモノがいいのは当たり前。『安いし、こんなにうまい!』と驚かれたときに、はじめて値打ちが生まれる。どんな商売でも、長く続いているのは、値打ちのあることをやり続けているところや。俺たちも値打ちのある商売をしようや」
これが、清水の商売哲学でした。

だから、開業当初から原価率は50%。外食産業の平均原価率は30%台ですから、まさに“非常識”な原価率です。利益を出すためには不利な選択ですが、やり方を工夫すれば、「原価率50%」で持続可能な商売ができるはず……。そう考えた清水は、私たちにこう語りかけました。

「頑張って、いちばん難しい道を行こうや。お客様に喜んでもらうことを第一に考えるのが商売。正しいことを真面目にやり続ければ、必ず報われるときが来る

仕事は、うまくやろうとするな。
「バカ正直」にやり続けるから強くなれる。

著者プロフィール
豊﨑賢一 とよさき・けんいち
株式会社あきんどスシロー代表取締役社長。1965年徳島県生まれ。高校卒業後、大阪阿倍野の寿司屋「鯛すし」に就職。その直後の1984年、創業者・清水義雄氏が回転寿司に参入。お客様に「安いし、こんなにおいしい!」と喜んでもらうために、創業当初から「原価率50%」を貫くほか、加工、調理、回転レーンの管理まで、ひたすら小さな工夫を積み重ね、圧倒的な「商品力」をつくり上げた。 2009年に社長就任。約500億円(07年度)だった売上を約1200億円(13年度)に伸ばし、業界トップに躍り出る。また、09年度、11年度には顧客満足度指数調査(経済産業省)で、飲食部門第1位を獲得。現在、2020年度までに売上2000億円を達成すべく陣頭指揮をとっている。

それから約30年――。
「いかに、安くてよいネタを仕入れるか?」
「いかに、鮮度の高いネタをお客様に届けるか?」
「いかに、寿司の廃棄ロスを少なくするか?」
私たちは、「安くてよい商品」をつくるために、小さな工夫をひたすら積み重ねました。試行錯誤の連続でしたが、「値打ちのある商売をする」という哲学を、まっすぐバカ正直に、実践し続けてきたのです。

そして、長い時間はかかりましたが、「原価率50%」で持続可能なビジネスモデルを強固なものにすることができました。
私たちは、決して「商売上手」ではありません。だけど、それがかえってよかったのかもしれません。不器用でも愚直に小さな工夫を積み重ねたからこそ、簡単にはマネのできないビジネスモデルを生み出すことができたからです。むしろ、小手先の戦術で「うまくやろう」としなかったことが、いまのスシローを作り上げたのではないかと思うのです。

私がスシローの社長に就任したのは2009年。当時約740億円だった売上を約1200億円にまで伸ばすことができました。これは、お客様や協力会社、そしてすべての従業員がスシローを育ててくださったからです。改めて、深く御礼申し上げます。

そして、この間、私は、これまでのスシローの歩みを振り返りながら、創業者から引き継ぎ、育ててきた「商売哲学」を何度も見つめ直してきました。いい仕事をするためには、しっかりした「哲学」こそが必要だと思うからです。

この度、その内容を一冊にまとめさせていただきました。私はまだ49歳。経営者としても未熟であります。しかし、お客様と真剣に向き合う姿勢は誰にも負けないつもりです。本書が、少しでも皆様のビジネスの参考になれば、それに勝る喜びはありません。


【ダイヤモンド社書籍編集部からのお知らせ】

『まっすぐ バカ正直に やり続ける。』

本体価格1400円(+税)、四六判、248ページ

一軒の寿司屋を
1200億円企業に育てた「38の教え」!

「安かろう悪かろう」と思われていた回転寿司。しかし、スシローは「職人社長」のもと、利益を二の次にして、とことん品質にこだわり続けてきました。その結果、年商約1200億円、年間のべ1億2000万人が来店する国民的企業に成長。業界トップに躍り出ました。本書は、職人叩き上げの豊崎社長が、「スシロー30年」の歩みを紹介しながら、その愚直な経営を支えてきた「38の哲学」を抽出したもの。あらゆるビジネスに通じるエッセンスがつまった一冊です。

「不遇な東大卒社員」はなぜ生まれ続けるのか?

将来を約束されたはずなのに――。
不遇な東大卒社員が生まれる背景

将来を約束されていたはずなのに、なぜか不遇なポジションにいる東大卒社員を、見かけたことがないだろうか。彼らはなぜ、出世コースを外れてしまったのか

日本の最高学府・東大法学部――。

ここを卒業した多くの人が、中央省庁、政治、実業界、アカデミズム、ジャーナリズムなどの最前線で輝かしい実績を残している。「自称・一流大学」ではなく、誰もが認める一流大学だけのことはある。

ところが、多くの卒業生が活躍する一方で、組織において活躍できず、侮辱や嘲笑の対象にされている人もいる。日本の最高学府と言われる東大卒の中から、なぜそのような人が一定割合生まれるのだろうか。これは企業の会社員の中で、長年「謎」として語られてきたことでもある。今回は、ある企業に勤めている1人の男性を例に出しながら、不遇な東大卒社員が生まれ続ける背景を探ってみたい。

今回紹介する男性は、「マスコミの東大」と言われる一流の報道機関に就職しながら鳴かず飛ばずで、50歳のとき部下に対して「退職脅迫」をしでかした。これが大きな問題となり、社内では「飼い殺しの扱い」となった。今、雇用延長の社員として退職を目前に控えている。

なぜ、この男性はそんな行為をしてしまったのか――。その謎を探ると、背景に「学歴病」の存在が浮かび上がってきた。後述するように、世間の会社ではこの男性ほど過激な行動をとる者は少ないだろうが、実は劣等感にさいなまれるあまり、似たような行動に走る人はいるのではないだろうか、と筆者は感じている。


JR新宿駅から歌舞伎町方面に歩くこと、15分。靖国通りに面する6階建てのビルに、かつて新宿労政事務所があった。現在の、東京都労働相談情報センターである。都庁の出先機関であり、職員が解雇や退職強要などの労使紛争を調停し、解決する。

十数年前の夏の暑い日、ここにある放送局のグループ会社(正社員300人ほどの番組制作会社)の本部長・東村(仮名)が現れた。東村の管轄する組織内で労使紛争が起きたのだ。部長である坂下(仮名)が、男性社員・田口(仮名)に退職を強く迫った。それは脅迫に近いものだったという。田口は怒り、社内に労働組合がなかったため、新宿労政事務所に訴え、調停が行われた。東村はこの騒動を受け、労政事務所を訪れたのである。

東村の淡々とした声が室内に響いた。

「坂下は、もともと重度の心の病になっていて、私どもも困り果てていました。しかしながら、そんな彼への監視を怠り、田口君に不快な思いをさせてしまったことを悔やんでいます。今後は、このようなことがないように、労務管理をきちんとします」

こう言うと東村は立ち上がり、深々と頭を下げた。髪の毛が1本もない、尖った頭頂部だった。頭を下げたのは、テーブルを隔てて座る田口に対してである。田口は、東村がトップを勤める番組制作本部の一員であり、31歳のディレクターだった。

田口の横に座るのは、新宿労政事務所の職員。職員がその後、東村に和解文書の手続き書類などを手渡し、説明する。東村は腕を組み、無表情だった。その姿を半ば放心状態で、半ば疲れ切った表情で見つめる田口は、直属上司である部長の坂下を思い起こした。

「いつのまにか、あの人(坂下)は、重度の心の病となっている。とても、そうは見えない。結局、本部長や役員などは、あの人をスケープゴートにして、今回の問題を終えようとしている。『トカゲのしっぽ切り』だ……」

本当に心の病だったのか?
「退職脅迫」で失脚した東大卒部長

田口の上司である坂下の年齢はこのとき、50歳。背は165センチほどで、太り気味。腹部や首などに脂肪がまとまわりつく。それでも、表情などは30代半ばくらいに見える。

彼のキャリアは輝かしい。都内の高校を卒業時、東大を受験しようとしたが失敗。1年の浪人の末、東大の文科一類(法学部)に合格した。4年生時の就職試験では、放送局の記者職を受験し、内定を得た。この局の記者職は、入社の難易度が「マスコミの東大」と言われる全国紙の記者職と同レベルである。

入局後は20代の頃から、同期の中では平均的なペースで昇格をした。世間から見ると嫉妬の対象になるかもしれないが、ここ十数年、前述した「退職脅迫事件」の噂が広がったため、局内で立場を失っていた。

通常、会社の責任ある立場の者が社員に対して退職するように促すのが「退職勧奨」。本人が「辞めない」と意思を表明しているのに、なおも辞めるように仕向けるのが「退職強要」。これは民法の損害賠償の請求対象行為であり、不当な行為である。

坂下は、これを飛び越えた行為をした。狙いを定めた男性社員・田口を社内の個室に繰り返し呼んだ。その頻度は1ヵ月に6回、1回につき1時間近くにも及んだ。

その間、坂下は田口に向かって、「辞めろ」「辞めろ」と罵声を浴びせた。机をたたき、大声を出し、怒鳴り続けた。田口が仕事で大きなミスをしたわけでもない。中途採用で入り、まだ2年目。しかも30歳。ミスをしようにも、それほど大きな仕事を与えられていない。

坂下はそれでも、刑事事件にもなりかねない「脅迫」めいた退職強要を繰り返した。東大法学卒とは信じがたい、知性も良識も常識のひとかけらもない、犯罪類似行為である。曲がりなりにも報道機関での出来事であり、日頃「社会正義の実現」を唱えている放送局の管理職としては問題がありすぎる。

 

 坂下は当時、局のグループ会社に出向していた。創業し10年ほどが経った、正社員300人ほどの番組制作会社だ。ここの制作部の部長だった。部員は60人ほど。「出世コース」とは言い難いものだった。むしろこのまま局に残っても、もはや本部長や局長などの幹部には到底なれない、という意味合いを含んだコースだった。

東大法学部卒の坂下には、初めての挫折だったのかもしれない。東大出身者だが、仕事に関しては平々凡々とした評価だっただけに「ワン・オブ・ゼム」の扱いだったのだろう。

《「ワンノブゼム」とも》その中の一つ。大勢の中のひとり。

「到底まともな人間ではない」
酒の席で周囲に嘲笑される悲哀

坂下は、自らの退職脅迫が新宿労政事務所に持ち出されると、怯えた。慌てて、上司である本部長の東村に助けを求めた。田口は、個室の中でのやりとりをマイクロカセットで録音し、職員に提出していた。こんなことは、報道機関としては前代未聞である。坂下はおそらく、田口がそこまでの行動に出るとは想像できていなかったに違いない。「素直に辞表を出す」と睨んでいたはずだ。

田口の行動は、迷いに迷った末のものだった。もう、会社には残ることができない、と察知していた。でも、せめて一矢を報いたい。その一心だった。本部長・東村もまた、局からの出向組である。担当役員である山本(仮名)の指示もあり、東村は坂下の代わりに、新宿労政事務所に出向いた。1ヵ月間で数回にわたり、相談員や田口と話し合った。

このとき東村は、「心の病である部長の坂下と部員・田口との問題」という位置づけで、労政事務所と話をした。「経営側である本部長の私も、役員の山本も、人事部も皆知らないところで起きたことであり、実に迷惑をしている」といわんばかりだった。まるで誰かに言いくるめられているかのように、1人で話し続ける。あたかもリハーサルをしていたかのように、慣れたものだった。

しかも終始一貫して、坂下のことを「重度の心の病のため、部下を脅迫し、辞めさせようとした部長」と強調した。挙げ句に、「過去に心の病に何度もなり、その都度周囲は迷惑をしている」とも付け加えた。田口には初耳のことであり、信じられないものばかりだった。東村は、役者のように嘘をつき続けた。「持て余し者は、部長の坂下こそなのだ」と繰り返した。

「坂下の精神はまともではない」「坂下は管理職とは言えないレベル」「坂下は家庭でも不和が絶えない」

田口はそんな言葉を聞くと、胸が詰まるような息苦しささえ感じた。ひどい目に遭わされたとはいえ、一応は坂下は自分の上司なのである。ここまでひどく言われていると、聞くに堪えなかった。

数ヵ月後の人事異動で、東村は親会社である局に戻った。栄転に近いものだったという。坂下も数年後、いったんは異動になり、局に戻った。「出世コース」から完全に外れた部署の「部下がいない部長」になった。絵に描いたような左遷だった。

この頃、すでに「重度の心の病で、部下を退職脅迫した部長」というキャッチコピーが、職場に広く浸透していた。数年後、早期退職により50代後半で退職した。能力や実績にふさわしくない莫大な退職金を手にしたと、局内では笑い話になっていた。

その後、他のグループ会社に雇用延長社員として勤務した。東大法学部卒を感じさせない、その未練がましく惨めな末路が、嘲笑の的になっていた。「坂下は恥じらうことなく、会社のホームページにあるコラムのスペースに妄想のような日記を書いては、独りで喜んでいる。認知症気味ではないのか……」と後ろ指を差され続けた。

いつしか劣等感や嫉妬心の塊に
部長を陥れた「2つの狡猾な罠」

坂下はそのグループ会社に数年間勤務し、足もとで辞めようとしている。65歳が近い。犯罪類似行為である退職脅迫をした理由を、実は自分でも今なお正確にわかっていないフシがある。心の病だからなのではない。実は、周囲から巧妙に仕かけられた罠だったから、理解ができていないのだ。

仕掛けの1つは、事件が起きた頃、子会社の同じ部署にいた社員・内村(仮名)が巧妙につくったものだった。内村は、当時30代後半。プロパー社員として中途採用で入り、数年経った頃、40歳を前に伸び悩んでいた時期だった。そのときに、中途採用で新しく入ったのが30歳の田口だった。内村は自分の立場が脅かされる、と感じたのだろう。田口は、先輩である内村を立てることをあまりしなかった。いつしか2人の間に、距離が生じた。内村は、部長・坂下のもとへわざわざ出向き、嘘をつき続けた。「田口は、坂下さんの仕切りを批判している」と――。

あることないことを吹聴すると、坂下は次第に洗脳されていった。彼には、感化されやすい下地があった。東大法学部卒でありながら、昇格が遅れ、50歳を目前に子会社の部長でしかない。自分は「落ちこぼれ」だと、劣等感を抱いていた。実際に、子会社時代の坂下からそうした愚痴を何度も聞いていた同僚は、局内に複数いたという。また、自らのポジションに不満を持っていることは、誰の目にも明らかなほどだった。

自分を大きく見せたい。なめられたくない。人からもっと称賛を受けたい――。最高学府で学んでいたという、過去の栄光が消えなかったのだろうか。自分には、期待したような能力はなかった。そんな現実を受け入れることができない。そのときの彼は、まさに「学歴病」にかかっていたのではなかろうか。屈折した劣等感に懲り固まる坂下を、ひと回りも年下でありながら、したたかな内村は利用した。田口をいじめるように仕向け、退職脅迫をするようにそそのかした。

もう1人、坂下にそっと近づいた男がいる。彼が講じたのが、2つめの仕掛けである。田口が中途採用で会社に入る前に数年間勤務していた、番組制作プロダクションの社長だった。当時40代後半だったこの社長は、50歳だった坂下と年齢が近い。下請け会社を長年経営しているだけに、放送局にいる世間知らずの中途半歩なエリート社員をそそのかす術は心得ていた。

社長もまた、田口についてあることないことを吹聴し、坂下に迫った。酒の場に何度も誘い、ただで飲み食いをさせた。

「あんなやつは辞めさせてください。あいつは、うちの会社のお金を持ち出し、辞めていった……」

これも嘘である。社長は、自分と口論の末退職し、放送局のグループ会社に転職した田口のことを許せなかったのだ。もともと業界では、トラブルメーカーとして知られる男である。本来、こんな社長の言い分を真に受ける者は少ない。ところが坂下は、面白いほどに洗脳された。自分を認めてくれる人に、心の底から飢えていたからだ。

「学歴病」に取りつかれた
エリートの哀れな末路

2人の狡猾な男にそそのかされ、坂下は部下である田口に退職脅迫をした。調子に乗って、何度も脅した。そのやりとりを録音されていることに気づくことすらなく……。退職勧奨と強要、脅迫の区別すらついていなかった。実は、そのターゲットは誰でもよかったのかもしれない。自分を大きく見せて、威厳を保ち、劣等感を克服できるならば……。

最高学府を卒業したものの、人生は思い描いたように進まなかった。いつしか、極度な劣等感や嫉妬心の塊となっていた。優越感が強いだけに、その反動で劣等感もすさまじいものとなる。その結果、あっけなく我を見失い、卑怯な輩たちにそそのかされ、犯罪類似行為をしてしまった。そして、後輩である本部長の東村に尻拭いをしてもらうハメになった。

この一連のゴシップが十数年、坂下の周囲で面白おかしく吹聴されていることすら、本人はいまだ気がつかない。学歴病にとりつかれた“エリート”が、長い会社員人生を今、終えようとしている。

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親介護による職場離脱、企業の存続を脅かし始める…職場混乱、退職・採用で甚大なコスト

内閣府によると、介護や看護を理由とした離職・転職者数は、年間10万人を突破している。離職者数の多さに目を見張るが、意外なほど検証されていないのが、企業や経営者にとっての介護リスクだ。従業員が介護問題に直面した場合、どんなリスクを秘めているのか、考察してみたい。
内閣府が発表した「平成27年(2015年)版高齢社会白書」によると、11年10月から12年9月の1年間で、介護や看護を理由とした離職・転職者数は10万1,100人であった。10万人超という数字の大きさに驚くが、介護をしている人の年齢割合はどうなのだろうか。

12年度の総務省「就業構造基本調査」によれば、「有業者」は男性が130万9000人、女性が160万1000人のうち、15歳以上の男女で介護をしている者は557万4000人で、男性は200万6000人、女性は356万8000人となっている。年齢階級別にみると、60~64歳が108万2000人ともっとも多いものの、40歳未満では約50万6000人、40代では約77万6000人、50歳から54歳は72万1000人、55歳から59歳は約93万人となっている。つまり、介護をしている人の年齢は幅広いということがいえるだろう。

ところで、団塊の世代が後期高齢者に突入する「2025年問題」まで、残り10年を切った。

厚生労働省の「今後の高齢者人口の見通しについて」では、65歳以上は3657万人(全人口に占める割合は30.3パーセント)、75歳以上は2179万人(同18.1%)と予測されている。この通りだとすれば、わずかあと9年で全人口の3人に1人は65歳以上ということになる。

このデータは、もうひとつの見方もできる。高齢者の子供は、働き盛り真っただ中の世代ということだ。

さらに、企業や経営者にとって突っ込んで考えなければならないのが、介護はそれを行う従業員ひとりの問題だけにとどまらないということだ。同じ部署内で、同時に、従業員の両親と配偶者の両親の介護問題に直面することが起こりうる可能性もある。「そんな大袈裟なことを」と笑い飛ばすほど悠長なことを言っていられなくなる時代が、そこまでやってきているのだ。まさに企業にとって無視することのできない「介護ビッグバン」が、ほどなく訪れることを理解する必要があると考える。

負の空気感染

従業員の介護リスクは、これだけにとどまらない。

ひとつは、本人はもとより、ほかの社員の仕事へのモチベーション低下も起こりうることだ。

従業員が介護休暇(介護休業)を取り、穴埋めのために、ほかの社員の負担が増えるとする。そうした場合、社員同士の関係性が希薄だったり、ほかの社員に介護経験がなければ、「なぜ介護を理由に仕事をたびたび休むのだろう?」と不満や疑問が次第に募っていくことは十分に考えられる。

こうした感情のすれ違いから、本人が孤立に陥り、職場のモチベーション低下を招き、やがては生産性の低下にも通じるといった“負の空気感染”を巻き起こす。

介護問題を抱える従業員がキーマンだった場合、社内だけの問題で終わらないケースもある。実際、クレームやトラブルの発生にも迅速に対応できなかったことが続いたとして、部下の信頼を失い、組織としての求心力も弱まり、ついには異動を命じられた実例もあるほどだ。

問題で業務に支障をきたしてしまうことが起こったなら、企業としての業務バランスが大きく崩れることは、頭の片隅に置いておきたいものだ。

採用コスト問題

業務以外にも、雇用や育成にも影響を及ぼすことに注意が必要だ。中小企業の従業員が抜けた穴の大きさは、大企業のそれとは格段に違うことを知っておく必要がある。大企業であっても、育成に時間のかかる技術職や特殊な業務に就いている人の穴埋めは、簡単にはいかないことは容易に想像ができるだろう。

採用コストの問題も深刻だ。介護離職のたびに退職と採用コストが発生する。良い人材を確保するために採用コストは無視できないが、広告費が今後上昇するとの見方もあるなか、介護離職に伴う採用コスト問題は、大きな課題になるに違いない。

そして、企業にとって介護ビッグバンの最大の課題は、抜本的な体制整備が構築できていなければ、今後高齢化が進む日本において、退職・採用を繰り返してしまうことに尽きる。

企業にとっての介護リスクが声高に検証されていないこともあって、「そのうちに考えるつもり」と明かす経営者や人事関係者も少なくない。

だが、従業員の介護対策が後手後手になったばかりに、本来なら失わなくてもいい人材を失うだけでなく、ひいては技術継承や企業文化の喪失につながることも考えられる、逆にいえば、介護に優しい企業は、企業としての新たな付加価値につながるように思えてならない。どうやら、企業にとっての介護対策は、企業の新たな生命線ともいえそうだ。
(文=鬼塚眞子/一般社団法人介護相続コンシェルジュ代表、保険・介護・医療ジャーナリスト

なぜ「マネジメント」で人は育たないのか?

あらゆる業界で「イノベーション」が求められるなか、経営学者の言葉にヒントを求めようという動きも活発になっている。“現代経営学の父”であるドラッカーは、どのようにして組織でイノベーションを起こすべきと説いたのか。またそのドラッカーの後継者ともいわれるコリンズは、「適切な人材こそもっとも重要な資産」と述べたが、その真意は何なのか? ドラッカーが小説形式で学べる『もしドラ』の続編を執筆した岩崎夏海氏と、ドラッカーとコリンズに何度もインタビューしたことがあるジャーナリストの牧野洋氏に語っていただいた。

岩崎:今日はよろしくお願いします。実は昨年、クレアモント(カリフォルニア州)にあるドラッカーの自宅へまた行ったんですよ。

牧野:岩崎さんのFacebookにそう書いてありましたね。懐かしかったですよ。

岩崎:6年前、牧野さんにクレアモントで取材していただいたときは、本当にお世話になりました。ドラッカースクールに在籍していた奥さんの恵美さん(現・九州大学准教授、4月から東京理科大学経営学部准教授)には、ドラッカースクールで留学生の方たちとお話させてもらったり、ドラッカーの自宅に連れられて存命だったドリスさん(ドラッカー夫人)に引きあわせていただいたり。ドラッカーと自分との距離がすごく縮まったような経験でした。

牧野:クレアモントはそれ以来ですか?

岩崎夏海(いわさき・なつみ)
1968年生まれ。東京都日野市出身。東京藝術大学建築科卒。大学卒業後、作詞家の秋元康氏に師事。放送作家として『とんねるずのみなさんのおかげです』『ダウンタウンのごっつええ感じ』等、テレビ番組の制作に参加。その後、アイドルグループAKB48のプロデュースなどにも携わる。2009年12月、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(ダイヤモンド社)を著し、ベストセラーに。(写真:大槻純一、以下同)

岩崎:はい、そうです。ドラッカーの自宅を山崎製パン社長の飯島延浩さんらの寄付によってドラッカー・インスティテュートが購入し、「ドラッカーハウス」という一種のミュージアムにして昨年オープンしまして、僕もそのオープニングイベントに参加しました。そこに『ビジョナリー・カンパニー』の著者であるジム・コリンズさんもいらっしゃったんです。

コリンズさんといえば「ドラッカーの後継者」ともいわれる経営学者ですが、僕の『もしドラ』のことも知っていてくれました。牧野さんがお話ししてくれたんですよね?

牧野:そうですね。コリンズに「今、こういう本が売れてるんだよ」という話をしました。

岩崎:牧野さんは日経新聞や日経ビジネスの記者時代に、ドラッカーとコリンズの両方を取材していて、『ビジョナリー・カンパニー4』の翻訳もされています。そういう経緯もあったので、あらためて牧野さんとドラッカーとコリンズのことも交えていろいろとお話したいと思ったんです。

牧野:ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします。

「マネジメント」は役に立たない?

『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「イノベーションと企業家精神」を読んだら』、通称『もしイノ』は、高校1年生の女の子が野球部のマネージャーになって、ゼロから野球部をつくりあげて甲子園を目指すお話です。本の中では、ドラッカーのほかにジム・コリンズの『ビジョナリー・カンパニー』も登場するのですが、そうしようと思ったきっかけは何だったのでしょう?

岩崎:『もしドラ』が世に出た後、けっこう悩んでいたんです。売れたことによって反応がいろいろあったのですが、「本の中に出てくるマネジメントなんて、現実社会ではうまくいかないよ」という声がありまして。

牧野:なるほど。

岩崎:特にうまくいかないと言われていたのが、企業における社員教育についてのマネジメントです。従業員の強みを活かそうとマネジメントしても、なかなかうまくいかない。ドラッカー学会に参加すると、中小企業の経営者の方たちから、そういう声をよく聞きました。そこでドラッカー以外にヒントを求めようと読んでみたのが、特にファンが多い『ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則』だったんです。

どうもアメリカでは『ビジョナリー・カンパニー』の『1』より『2』のほうが人気があるようなんですね。僕も『もしドラ』の続編を書くつもりでいたから、そういう意味でも参考にしようと思いました(笑)。世の中には少数ながら、『ドラゴンクエスト』や『ゴッドファーザー』のように『1』より『2』のほうが人気のある作品があるんですよ。

牧野:『ビジョナリー・カンパニー2』はアメリカで桁違いのヒットになっていますからね(笑)。

牧野洋(まきの・よう)
日本経済新聞ニューヨーク駐在、編集委員、日経ビジネス編集委員などを経てフリーランス。著書に『最強の投資家バフェット』『不思議の国のM&A』『官報複合体』『米ハフィントン・ポストの衝撃』、訳書に『ランド』『市場の変相』『ビジョナリー・カンパニー4』など。記者時代にドラッカーとコリンズに何度もインタビューし、『知の巨人 ドラッカー自伝』を担当した。

岩崎:いろいろ考えたのですが、シリーズになった作品で『1』を超えた『2』というのは、『1』の批判へのアンサーであり、『1』で足りなかったところ、描ききれなかったところをしっかり描いているものなんです。『ビジョナリー・カンパニー2』の冒頭でも、『1』への批判が紹介されていて、それに応えるものが『2』の内容であると述べているんですね。だから『もしドラ』も『1』で描ききれなかった部分を『2』で描くことがだいじかなと。

牧野:『もしイノ』、僕は非常に面白く読ませていただきました。特に、後半に進んでいくにつれて、甲子園を目指す野球部のマネジメントチームが盛り上がっていくんですよね。

岩崎:ありがとうございます。

牧野:もう一つの感想としては、高校野球の話なのですが、すごく身近に感じながら読めました。(ドラッカーの自宅があった)クレアモントに5年近く住んでいたのでドラッカーのことは身近に感じますし、妻が留学していたドラッカースクールも本の中に出てきて、僕が翻訳した『ビジョナリー・カンパニー4』の著者のジム・コリンズの名前も登場する。まったく他人事とは思えずに読み進めました。

岩崎:牧野さんは、ドラッカーと実際にお会いされて長時間インタビューするという経験をお持ちの数少ない日本人と言えます。経営者の方でドラッカーとお会いされた方は何人もいらっしゃると思いますけど、マスコミの人でドラッカーに直接取材された日本人はあまりいないわけですから。

僕が牧野さんからお聞きしたドラッカーについてのいろいろな話は、『もしイノ』のリアリティにつながっていると思います。やっぱり作家って、自分の経験がないとなかなか書けないものなんです。『もしドラ』が出た後、アクティブに動き回って、いろいろな方にお会いしてお話を聞けたことは本当によかったと思います。

野球が大好きだったドラッカー

牧野:これを読んでいて、『マネーボール』という映画を思い出しました。原作のマイケル・ルイスの作品が好きなので、映画化されると必ず観るのですが、すごく良い映画なんですよ。野球がテーマなんですけど、ホームランを打ったりするシーンは脇役で、裏側の話ばかりなのにすごく面白い。『もしイノ』を読んでいても同じように感じました。こうやってバックオフィスの話を面白く見せるのって、すごく難しいじゃないですか。それをこうやってやられた岩崎さんは尊敬します。

岩崎:いやいや、そんな(照)。

牧野:以前、岩崎さんとお会いしたときにも話題にしましたけど、実はドラッカーって野球とつながりがすごく深いんですよね。

岩崎:そうなんですよね。ヨギ・ベラ(ヤンキース、メッツの名選手)がドラッカーの家の隣に住んでいた話もお聞きしました。

牧野:ドラッカーがよく子どもたちに学校を休ませて、野球の試合を見に行ったという話もありましたね。

岩崎:あと、インディアンズかどこかのユニホームを着ている写真があったり、ワールドシリーズを楽しみに見ていたという話も。

牧野:野球にすごく興味を持っていたらしいんです。ドラッカーがどこかの野球チームのコンサルタントをやっていたら面白いですよね。

岩崎:野球というものは、非常にマネジメンタルなスポーツなんです。これはいろんなところでお話ししていることなんですが、野球では監督のことを「マネージャー」と呼びますよね。でも他のスポーツだと、監督はほとんどが「ヘッドコーチ」なんです。ヘッドコーチは、コーチのトップですから、つまり教育者ですよね。一方、野球では、グラウンドにいる最高責任者がマネージャー。野球は監督が介在する役割が非常に大きいといえます。

牧野:なるほど。ところで、『もしイノ』はイノベーションがテーマですが、実話を元にした『マネーボール』でブラッド・ピットが演じていたビリー・ビーンがやっていたことは、まさにイノベーションですよね。

岩崎:そうです、そうです。

牧野:ビリー・ビーンは、それまでどのメジャー球団もまったくやっていなかった統計的な手法を持ち込んで既成概念を破壊してしまった。彼がGMを務めるオークランド・アスレチックスは20連勝したんですよ。『もしイノ』でも、主人公たちは先発ローテーションなどの高校野球に今まで導入されてなかった手法を持ち込んでいます。『もしイノ』を読んで、『マネーボール』でやっていたことはイノベーションだったんだ、ということを再発見しました。

イノベーションはすぐに真似される

岩崎:『もしイノ』を書くとき、『マネーボール』も非常に参考になりました。野球でも長年経験を積み重ねていくと、どうしても「常識」ができてしまうんです。ただ、人間の常識とか人間が合理的だと思いこんでいるものの中には、案外非合理だったり不条理だったりするものが多かったりします。近年はその常識を統計学的にデータで洗い直すことが増えてきました。たとえば、出塁率というすごく地味な指標が、客観的に見ると勝敗に大きな影響を及ぼしていることがわかった。そうやって野球もどんどん改革されているんです。

牧野:ええ、ええ。

岩崎氏と牧野氏。

岩崎:『もしイノ』を書いているとき、何が一番苦労したかというと、野球の常識を打ち破るアイデアを考えることでした。先ほど牧野さんがおっしゃった、高校野球での先発ローテーション制度もなかなか出て来なかったんですよ。

牧野:書きながら見つけていった感じですか?

岩崎:そうですね。この作品は最初から最後までスラスラ書けたわけじゃなくて、それこそ一年半ぐらいかけて、つっかえながら書いていたんです。中でも苦労した先発ローテーション制度について指摘していただいたのは、本当に嬉しいです。

牧野:本の中にはほかにもイノベーティブなアイデアがありますが、ネタバレになってしまうのでここでは話しません(笑)。『マネーボール』では、オークランドの手法を真似するチームがその後いっぱい出てきたらしいですけど、『もしイノ』をきっかけに高校野球でも新しいことを試みるチームが出てきたら面白いですね。

岩崎:ありがとうございます。現実にはなかなか難しいかもしれませんが、高校野球の常識を創造的に破壊していければいいですよね。

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億も夢じゃない!?今がチャンスの仮想通貨投資

昨年2月、インターネット上の仮想通貨ビットコイン」の取引所である「マウントゴックス」が、顧客から預かったビットコインを消失し破綻したことから、仮想通貨という言葉が一気に世間に広まった。

当時の日本国内の報道は仮想通貨=危険・不安というイメージを煽る報道であったが、仮想通貨投資を行っているサラリーマンの水野氏(仮名)は、マウントゴックスの件は、経営者であるカルプスCEOが問題だっただけで、ビットコインの仕組みに問題があったわけではないと語る。

そこで、仮想通貨投資を行う上で、まずは仮想通貨を簡単に理解する必要がある。仮想通貨とは、国家や中央銀行が管理・発行する従来の通貨ではなく、ネット上にデータとして存在する決済手段。紙幣、硬貨は発行されておらず、決済は金融機関を通さないため、諸経費や手数料などがほとんど発生しない。また、送金にかかる時間も数秒~数十秒で完了し、世界中に3,000種類以上もあり、未来の通貨といわれているが、現状は、投機目的と利便性においての利用が半々ではないかと分析されている。


日本に住んで、円を利用している我々には理解しづらいが、ギリシャ危機や通貨が安定していない国では、自国の通貨よりも仮想通貨の方が安心できるとし、自国の通貨を仮想通貨に替えて保持している人も多いと水野氏は話す。

また少し前の話になるが、2009年に1ビットコインは0.8円だったが、2013年には1ビットコインが128,000円に高騰。なんとわずか4年で160,000倍になった。1ビットコインを1円の時に1万円購入していた人は数年後、12億8,000円になり、仮想通貨長者が実在している。

水野氏は日本国内においては、マウントゴックスの報道などから、みんなが及び腰になっている今が仮想通貨投資のチャンスだと語る。

さらに水野氏は日本において仮想通貨投資がチャンスである証拠は他にもあると語る。ネットで仮想通貨や通貨の名前で検索すると、ネガティブな記事が散見される。一方で、楽天やリクルートGoogle、アップル、マイクロソフト、NTTといった名だたる超有名企業が参入してきている。これはなぜかなのか、一例を挙げて説明してくれた。例えば、楽天市場にてクレジットカードで何らかの商品を買い決済した場合、事業者は5%前後の手数料を負担することになる。これを仮想通貨で決済した場合、手数料はほぼ発生せず、事業者負担の5%は限りなく0になり、まるまる儲けになることとなる。(既に楽天USAではビットコインでの決済を導入済み)。さらに15時以降は振り込めない、土日祝は対応出来ないといった金融機関の都合もない。こうした理由から超大手企業は仮想通貨への参入を画策しているのだという。つまりは非常に使い勝手の良い通貨である。水野氏は確信めいてこう続ける、日本も近い将来仮想通貨が普及し、通常の生活の決済として使われていくでしょうと。

良いことだらけに思える仮想通貨だが、なぜ日本において、仮想通貨のイメージが良くないのかを水野氏に聞いてみた。

マウントゴックス問題をはじめ、日本の仮想通貨報道には悪意がある、これは水野氏の持論だが、日本国内においては、仮想通貨=危険、不安と強く認識させる必要があるのだと語る。というのもこのマウントゴックス事件、世界ではほとんど報道すらされておらず、世界各国で行われているビットコインのカンファレンスでも話題にも上がらないという。ではなぜここまで過剰に仮想通貨が不安である事を日本国民に植えつける必要があるのか、それは日本の借金との関係があると語る。

国債は国民の預貯金で発行されるが、その上限と一般にいわれる額が1,400兆円。現在の日本の借金は約1,300兆円、国債の原資は、銀行預金、貯金、保険、金融資産なので、日本円が海外に行ったり、他の通貨や海外の資産に替わってしまったら、国は非常に困る。「国債」が発行できない、つまり借金できなくなってしまうからだ。

さらに水野氏はこう続ける。海外には日本では信じられないような利回りの金融商品がゴロゴロある。以前は比較的簡単に購入できた海外の金融商品も日本人が買えないように、政府はいろんな法律や規制を作り、円が海外に行くことを防いでいる。「オフショア投資」という言葉を聞いたことがある方も多いと思うが、今では、簡単ではなくなったという。

今後の日本を考えたとき、国の膨大な借金、増税、少子高齢化による労働力の低下、医療費や年金の高騰、そして、「マイナンバー制度」と国は円を安定させるために様々な施策を行っている。このまま国の借金が増え続けたら極論であるが、1万円札がただの紙切れになる可能性もある。というのも日本は先進国の中で唯一ハイパーインフレを2度経験している国である。水野氏は無駄に不安を煽るわけではないと前置きし、全ての資産を円で持っているリスクは大きい、その分散先に適しているのが仮想通貨であると語る。


そこで水野氏に3,000種類もある仮想通貨の中で今後、注目する仮想通貨は何かと聞いてみた。

今お薦めなのは「エターナルコイン」ですねと、通貨の名前が挙がった。

その理由は日本発の仮想通貨という安心感、たった500円から取引が始められる手軽さ、開始半年で約5倍の上昇率と魅力的な言葉が並ぶ。

その中でも水野氏が特に強調するのは、「DOT機能」だ。これはつい先日発表されたばかりの「世界初」の機能で、エターナルコイン保有者の全ての取引で発生した手数料が保有量によって分配される仕組み。

銀行を例に取ると、全ての銀行のATM入出金手数料、窓口での振り込み手数料などの半分が分配されるということで、それが毎週分配されるとのことだ。年間にするとなんと50回以上も”配当”を受け取れる計算になる。

エターナルコインは既にフィリピンでの取引所を開設しているが、今後、香港、韓国をはじめとしたアジア主要国、イギリス、アメリカをはじめとした、欧米主要国での取引所開設を予定しワールドワイド戦略を発表している。

世界各地で取引される手数料の半分が分配されるということは膨大な利益を得る可能性が高い。またこの「DOT機能」は「特許出願中」であることも「エターナルコイン」の買い要素だと水野氏は言う。

さらに水野氏は「エターナルコイン」は、24時間365日オープンしているから、好きな時間に取引可能、いつでも来社可能で、もちろん電話対応も可能。外国人スタッフも常駐しているので英語もOK。弁護士事務所3社との顧問契約をしており、コンプライアンスも万全、万が一取引所が停止しても顧客の預かり金は保全される完全分別管理と、ここまで徹底して顧客目線の仮想通貨は非常に少ないと語る。また一方で、ネット上には「エターナルコイン」を誹謗中傷する記事も散見するが、市場が成熟していない今だからこそ買いであり、数ある仮想通貨の中でもメイドインジャパンの「エターナルコイン」を薦める理由であると語ってくれた。

投資の格言のひとつである「人の行く裏に道あり」。

仮想通貨「エターナルコイン」で500円から体感してみるのもよいかもしれない。
(文=編集部)

【エターナルコインの詳細はこちら】
https://www.eternallive.jp/

 

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勤務終了直後に「あと12時間働け」…警備業界、過労死続出の心身破壊される過酷な労働実態

2015年11月、大阪府大阪市の警備会社が41歳の男性警備員に違法な残業をさせたとして、同社および総務次長が労働基準法違反の疑いで書類送検される事件が起きた。男性警備員は施設やイベントの警備に従事していたが、1カ月の間に労使協定の限度時間を大幅に超える約334時間も働かされていたという。
なぜ、この警備会社は、従業員にこれほどまでの過酷な労働を強いたのだろうか。自らも警備員として働くなど、警備業界の事情に詳しいフリーライターの橋本玉泉氏に、過酷な労働実態や業界の体質について話を聞いた。

法外な労働時間の原因は慢性的な人員不足?

–労働基準監督署によると、問題の警備会社では登録された警備員のうち、4分の1に当たる30人が過重労働に苦しんでいたようです。こうした労働環境は、警備業界ではよくあるものなのでしょうか。

橋本玉泉氏(以下、橋本) 警備会社によってさまざまなケースがあるとは思いますが、非常に多いのではないかと思われます。例えば、勤務が終わった直後に会社から電話があって「あともう1勤務できないか?」と言われるようなケースは珍しくありません。突発的な残業というよりも、人手が足りない、必要な人員が確保できないという状況は、複数の現場でよく聞かれます。

–そういった事例が積み重なり、結果として残業時間が大きく膨れ上がってしまうということですね。そもそも、なぜそんな状態に陥ってしまうのでしょうか。

橋本 いくつかの要因のひとつとして、警備業界の「慢性的な人員不足」が挙げられます。警備業では、業績を上げるには作業数を増やすしかありません。また、警備員の配置が要求される現場も以前に比べて増えています。そうした状況から、各警備会社は仕事を受けられる限り受けるという状況になりがちです。それで、多少無理をしてでも限られた人員で仕事を回すしかなくなります。

また、施設警備などでは12時間以上の長時間勤務も珍しくないのです。さらに、多くの警備会社では、内勤は正社員として雇用するケースがあっても、現場勤務の警備員は、1勤務ごとの報酬で働く非正規の雇用形態が主流で、昇給や賞与、有給などがないケースが多いです。

そのため、生活費を稼ぐために超過労働をしてしまう警備員も少なくありません。そうしたことから、1人当たりの負担が大きく、離職率も高いという悪循環を起こしやすい状態になっているのではないかと考えられます。

警備業界の人員不足を引き起こす3つの理由

–求人情報誌を見ると、大手から中小の警備会社まで、常に警備員の募集が絶えません。なぜ警備員の数が足りていないのでしょうか。

橋本 いくつかの原因が考えられます。例えば「健康被害」。警備員の仕事は巡回や交通誘導などをよく見かけることから、「簡単で楽な仕事」というイメージを持つ人も少なくないかもしれません。

しかし、たとえ重労働でなくとも、長時間の勤務は体力をかなり消耗します。また、傍目から見て楽そうでも、実際はきつい仕事もあります。たとえば「立哨」。警備のために立っていることですが、けっこう大変な仕事です。そのため、腰や膝を痛める人も少なくありません。

また、警備員は休憩時間でもゆっくり休むことができるとは限りません。仕事をする現場に休憩施設がないケースもあるのです。そのため、食事は菓子パンやカップ麺で手短に済ませることも多く、日勤と夜勤を立て続けに入る人もいるので、過労から心身の不調を訴える人も出てきます。

現場で体調不良を覚えたために病院に行ったところ、医師に「なんでこんなになるまで放っておいたんだ!」と怒られ、即日入院した警備員の話なども、いくつも聞いたことがあります。

–大阪の事件でも、当該警備会社では、過去に心臓疾患で亡くなった警備員の遺族が労災申請をしています。ほかの理由は、どういったものでしょうか。

橋本 「実務訓練の難しさ」も挙げられるでしょう。一口に警備業といっても、業務の種別や現場によって内容はさまざまで、求められるスキルは多岐にわたります。

そのためマニュアルの作成が難しく、警備会社の担当者も多忙なので教育に時間が割けないため、通り一遍の説明だけで「あとは現場で身につけてくれ」ということになりがちです。もちろん、基本的な作業動作だけで勤務できる現場もありますが、そうでない職場も多い。そのため、簡単な仕事だと思っていた警備が意外に難しい、とても勤まらない、とすぐに辞めてしまうケースも多いようです。

そうしたことから、登録したばかりの新人が現場に行っても仕事をうまくこなせないことがあっても不思議ではありません。さらに、現場では「使えねぇな!」と罵声を浴びせられることもあるため、精神的に疲れてその日限りで退職ということも多い。警備業界では、こういった状況が日常茶飯事だと思います。

警備業界の人員不足を引き起こす3つの理由

–求人情報誌を見ると、大手から中小の警備会社まで、常に警備員の募集が絶えません。なぜ警備員の数が足りていないのでしょうか。

橋本 いくつかの原因が考えられます。例えば「健康被害」。警備員の仕事は巡回や交通誘導などをよく見かけることから、「簡単で楽な仕事」というイメージを持つ人も少なくないかもしれません。

しかし、たとえ重労働でなくとも、長時間の勤務は体力をかなり消耗します。また、傍目から見て楽そうでも、実際はきつい仕事もあります。たとえば「立哨」。警備のために立っていることですが、けっこう大変な仕事です。そのため、腰や膝を痛める人も少なくありません。

また、警備員は休憩時間でもゆっくり休むことができるとは限りません。仕事をする現場に休憩施設がないケースもあるのです。そのため、食事は菓子パンやカップ麺で手短に済ませることも多く、日勤と夜勤を立て続けに入る人もいるので、過労から心身の不調を訴える人も出てきます。

現場で体調不良を覚えたために病院に行ったところ、医師に「なんでこんなになるまで放っておいたんだ!」と怒られ、即日入院した警備員の話なども、いくつも聞いたことがあります。

–大阪の事件でも、当該警備会社では、過去に心臓疾患で亡くなった警備員の遺族が労災申請をしています。ほかの理由は、どういったものでしょうか。

橋本 「実務訓練の難しさ」も挙げられるでしょう。一口に警備業といっても、業務の種別や現場によって内容はさまざまで、求められるスキルは多岐にわたります。

そのためマニュアルの作成が難しく、警備会社の担当者も多忙なので教育に時間が割けないため、通り一遍の説明だけで「あとは現場で身につけてくれ」ということになりがちです。もちろん、基本的な作業動作だけで勤務できる現場もありますが、そうでない職場も多い。そのため、簡単な仕事だと思っていた警備が意外に難しい、とても勤まらない、とすぐに辞めてしまうケースも多いようです。

そうしたことから、登録したばかりの新人が現場に行っても仕事をうまくこなせないことがあっても不思議ではありません。さらに、現場では「使えねぇな!」と罵声を浴びせられることもあるため、精神的に疲れてその日限りで退職ということも多い。警備業界では、こういった状況が日常茶飯事だと思います。

警備業界が「貧困ビジネス」批判から脱却する方法

–「生活困窮者を食い物にしている」という批判を覆すためには、警備業界はどういった対策をとるべきだと思いますか。

橋本 いろいろ考えられますが、待遇面での整備は必要ではないでしょうか。現在のように昇給などもなく、ただ現場の警備員の意識に頼るだけでは、自ずと限界があると思います。昇給や賞与が難しいとしても、諸手当の設置やなんらかのインセンティブの導入などを考える価値はあるでしょう。また、「スキルの高い警備員もまったくの初心者も、同じ報酬」という現状も考えていくべきだと思います。

現在、警備会社が導入している諸手当としては、列車見張員や、交通や施設の検定合格者といった有資格者に対するものがほとんどのようですが、ほかにも個々の警備員の意識や努力、スキルに対しても評価するような制度があれば、職場環境の改善につながるものとなるのではないかと思います。現在のように、報酬を増やすには勤務数を増やすしかないという状況では、長時間労働を助長させるだけだからです。

難しい問題ではありますが、今後は警備会社ならびに警備員にとって厳しい状況になる要素が挙げられています。以前から、クライアント側の要求も厳しくなっています。クライアント側から、検定合格者や高いスキルのある警備員を要求する傾向が強くなっているようです。

さらに、最近になって国土交通省から「平成29年度から、社会保険未加入者は公共工事の現場から排除する」という方針が打ち出されています。これは主として建設業者をターゲットにしたものですが、警備員も工事現場に立ち入ることから、警備員の勤務にも影響すると考えられます。

社会保険への加入はメリットも大きいですが、報酬の手取り分が減ってしまうため、警備員によっては敬遠する者も少なくないと思います。ともかく、警備員ならびに警備会社には、いろいろな問題が目の前に迫っているということではないでしょうか。

–ありがとうございました。

知れば知るほど、難しい問題が山積している警備業界。しかも、同業界は警察官僚の天下りが非常に多いとされる。警察官の本分は、不正を暴き、善良な市民の生活を守ることだ。その警察OBが上層部にいるのに、なぜ目の前で困窮している警備員を救おうとしないのだろうか。警備業界の深い闇が、少しでも晴れる日が来ることを願いたい。
(構成=西山大樹/清談社)

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アマゾンと出版社、容赦ない取次「外し」加速…問われる取次の存在意義、存亡の危機か

アマゾンジャパンは1月28日、東京・目黒の目黒雅叙園に販売契約協力している出版社などを集めて、2016年の方針説明会を開催した。
「説明会では、『YES 直取』という合言葉を掲げて直取引の説明をしていましたが、直取引の拡大が最大のテーマでした。なんと現在より直取引出版社数を2倍にしたいというから驚きです」(出席した出版社社員)

アマゾンが直取引の拡大をテーマに掲げていることは知られているが、日本に上陸してから間もなく、「e託販売サービス」というシステムを導入して、出版社との直取引を始めていった。当時のバイスプレジデント、ローレン川崎氏が慣れない日本語で「ちょく、とーりひーきー」と出版社を前に挨拶したのも懐かしい話だ。導入から約10年近くが経った今になって、アマゾンはまた「直取引の拡大」を大声で叫び始めた。

「昨秋頃に、アマゾンはベンダーセントラル(出版社への販売支援システム)に登録する出版社などを集めて、『和書ストア売り伸ばしセミナー』を開催していましたが、結局は直取引の勧誘でした。セミナー出席社に限定して、1カ月以内に申し込めば、通常60%である出版社からアマゾンへの卸率(編注:1000円の書籍であれば600円でアマゾンに卸すという意味)を66%にするというのです」(出版社社員)

この話に「ぐらっときた」と別の出版社社員はこう明かす。

「うちの取次への正味(卸率)は67%です。しかも新刊は5%の歩戻しが取られますので、実質正味は62%です。また、支払いがアマゾンは月末締めの翌々月末払いとかなり早いですが、取次の場合は6カ月以上かかります。1月に書籍を出してお金が入ってくるのは7月とか8月になってしまうので、アマゾンの提案に気持ちがぐらつくのも当然です」

この勧誘は、出版業界でちょっとした話題となった。というのも、アマゾンが実施するポイントサービスが再販違反に当たるとして、アマゾンへの出荷を見合わせるなどした日本出版者協議会が、「アマゾンによる出版社直取引(e託取引)の勧誘に対する声明」と題した異例の文書を発表したからだ。

詳細は同協議会のホームページに掲載されているが、アマゾンが出版社との直取引を拡大すれば、定価販売と委託販売とで成り立っている出版社・取次店・書店を軸にした、いわゆる正常ルートは破壊され、書店・取次店の廃業が続き、ついに出版社もアマゾンのいいなりにならざるを得ないことを懸念している。また、甘い条件は単年度のもので、契約更新時に結局は60%に戻されてしまう懸念もつきまとう。

この声明が異例なのは、一書店の仕入れ方法を出版社の団体が牽制したことだ。アマゾンと出版社は個々に契約して直取引を行っている。それ自体、ビジネス上はまったく問題がない。それを事業者団体が楔(くさび)を打ち込むかのような行為に出ること自体が珍しい。アマゾンへの脅威が、彼らの背中を押したのかもしれない。

アマゾンの攻勢

話を冒頭の1月28日の説明会に戻そう。その席でアマゾンは、昨年4月にKADOKAWAがアマゾンと直取引を開始した話を持ち出した。具体的な数字は明らかにはしなかったが、KADOKAWAの出荷売上は大幅に伸長し、在庫あり率は8%改善、搬入リードタイム(注文からアマゾンの倉庫に書籍が届けられるまでの期間)は4日に短縮したそうだ。さらに、全体の出荷金額をベースとした直取引比率が昨年12月は31.2%と単月としては過去最高を記録したとも付け加えた。

アマゾンは年末年始から異常な状況が続いているとして、1月下旬頃に「緊急事態」と称するメールを特定の出版社に通知した。書店から卸会社・日本出版販売や大阪屋への注文に対し、どれだけ在庫があるのかを示す割合のことを「在庫引当率」というが、これが1月に平時の60%を大きく下回り30%を切ってしまい、1月の売上高に多大な影響を及ぼしているというのだ。

そのため、出版社には取次から発注が来たら迅速に出荷してほしいなどとする「お願い項目」を3つも並べたて、「過去最悪の欠品率を連日記録している緊急事態につき、是非とも出版社様の多大な御協力を頂きたく存じます」としている。

「このメールが来たときは、何事かと思いました。調べてみると、出荷量は減っていませんし、アマゾンの勘違いじゃないかと担当者と話していました。これはまさに取次批判で、出版社へ直取引を促すものです。そのメールには『既に日次で取次様に引当率の改善を申し入れておりますが、残念ながら短期的な解決に至っておりません』と書いていました。さらに、28日には出版社を集めた方針説明会が予定されていました。『取次はダメだから、出版社にとっても直取引のほうがいいし売上も上がる』とアマゾンがアピールしているようにしか聞こえませんでした」(出版社社員)

説明会に出席した別の出版社社員は語る。

「このメールの件については、説明会の最後にアマゾンから話がありました。アマゾンの想定を超える注文が入り、日販(日本出版販売)も予定外の注文が来たために、取り寄せ処理が追いつかず、雪だるま式に注文がたまっていった結果、こんな事態になったと言っていました。直取引なら対応できたかもしれないと言いたかったのでしょう」

アマゾンに傾く出版各社

では、これほどアマゾンが直取引をアピールする理由はなんなのか。それは、相次ぐ取次の破たんである。

一昨年に、大手出版社と大日本印刷、楽天の出資により、債務超過を解消した大阪屋。昨年に民事再生を申請して今年4月に大阪屋と合併して、大阪屋栗田となる栗田出版販売。そして、今年2月に自主廃業を発表した太洋社。2014年から毎年中堅の総合取次が破綻しているのである。

昨年にアマゾンの勧誘セミナーに参加した出版社社員は話す。

「セミナーでアマゾンのスタッフは、契約出版社数が右肩上がりのグラフを見せながら、栗田が民事再生を申請した6月26日以降に直取引の契約を結ぶ出版社が一気に増えたと言っていました。現在も契約出版社数は増えていると思います。卸率66%という条件は、出版社が扱う全商品を直取引の対象とした場合だけです。これまで、様子見や戦略で一部商品しか直取引の対象にしていなかった出版社も巻き込もうとしているようです」

また、別の出版社社員もこう明かす。

「アマゾンのシェアは高まる一方です。太洋社が自主廃業を発表して、太洋社と取引をしていた書店が別の取次との取引に切り替えていますが、出版社側にしてみれば、その書店に納めていた書籍の初回搬入数は新たな取次が部決する数に反映されない。こうして縮小する書店分の売り上げを補てんするために、出版社が思い切ってアマゾンと直取引しようと考えるのもうなづけます。キャッシュフローもよくなるわけですし」

どうやら相次ぐ取次の破綻が、出版社とアマゾンとの直取引拡大の追い風になっているようだ。裏を返せば、取次という緩衝材の弱体化により、アマゾンの出版社に対する支配力が増しているともいえる。

ある出版社社員は言う。

「取次の対応が遅いので、アマゾンと直取引をしようかと思い始めています。ですが、周りの人からアマゾンの辛辣な話をたくさん聞きます。好条件で契約してもすぐに卸率を下げられるのではないか、という心配もあります。ただ、これだけ本が売れない時代に、売れる本だけは、その売り上げを最大化したいという切羽詰まった考えもあります。書店と取次の力が落ちていけばいくほど、出版社はアマゾンに寄りかかっていかざるを得ないという状況になっているのです。それが出版業界を破壊するとしても、業界が新しく生まれ変わるきっかけだと信じて、その道を行くしか選択肢はありません」
(文=佐伯雄大)

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コーポレートカバナンス

コーポレートガバナンス・コード適用スタート 収益力の向上が株価上昇をもたらす
2015年6月1日から東京証券取引所(1部・2部)に上場する企業にコーポレートガバナンス・コードが適用されることになった。コードでは、政策保有株に関する説明義務や2人以上の独立社外取締役を選ぶことなどを求めている。企業経営者が健全な企業家精神を発揮し、積極的に経営に取り組むことをサポートするのが適用の趣旨だ。これを機に上場企業が投資家に向き合う姿勢はどのように変化し、日本株市場や個人投資家にどのようなメリットをもたらすか。野村総合研究所 上席研究員の堀江貞之氏に話を聞いた。
堀江 貞之氏

迅速・果断な経営判断で利益が次の投資を生み出す

 コーポレートガバナンスの概念は非常に広範で、その定義は日本ではいまひとつ定まっていないように感じます。今回、コーポレートガバナンス・コードを適用するにあたって、東京証券取引所ではコーポレートガバナンスを「会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み」と定義しました。
迅速・果断な意思決定とは、もっと積極的な経営を行い、収益向上を目指すことです。どちらかというと不祥事を防ぐ「守り」の仕組みとしてよりも、収益力を高めるための「攻め」の経営を行う上で必要な原則を取りまとめたのが今回のコーポレートガバナンス・コードの本質です。
そもそもなぜこうした指針が必要なのでしょうか。資本主義経済において企業は、株主から委託を受け、資本を使い、収益を上げるのが本来のあるべき姿です。しかし実体は、2011年までの過去十数年間、日本株に投資してもあまり利益がでませんでした。それにはさまざまな理由が考えられますが、やはり日本企業の収益力が落ちたことが一番の原因ではないでしょうか。そこで政府は成長戦略のひとつとして今回のコードを制定したわけです。迅速・果断な経営判断により利益が次の投資を生み出し、さらなる利益につながれば従業員の収入や株主への配当がアップします。それが経済を一層活性化させる、というのが政府の考える基本的なシナリオです。

企業のリスク要因を見極め中長期の企業価値を探る

 コーポレートガバナンスがうまく機能しているからといって、収益力が高い企業かというと、必ずしもそうとはいえません。収益力が高い企業は、長期的に企業価値が上昇する企業だと考えます。それには「高い参入障壁」「安定的なキャッシュフロー」「顧客ロイヤリティ」「独自のブランド」といった強みが必要条件となります。そうした強みを持っていたとしても、コーポレートガバナンスが全く機能していなければ、やはり中長期的に企業価値が高まることは考えにくいでしょう。
例えば、非常に強いリーダーシップを持ったワンマン社長の企業があるとします。経営の意思決定のスピードといった面では恐らく優れているでしょう。短期的には高い収益力を発揮することもあります。半面、周囲の意見に耳を傾けないトップゆえ組織としての風通しが悪く、コーポレートガバナンスが機能しない負の側面が表面化し、不祥事の発生リスクが高まることもあります。
その意味でも、コーポレートガバナンスが整っているかどうかは企業のリスク要因を見極めるうえできわめて重要です。

社外取締役の意見を取り入れ収益を高める投資を実現

 今回のコードは、5つの基本原則、30の原則、38の補助原則の計73項目で構成されています。企業には、報告書をつくって各項目をどこまで実施しているか、投資家に詳しく説明する義務が課されました。
基本原則の中に独立社外取締役を2人以上選ぶことを求める項目があります。取締役会の役割は大きく「ビジネスマネジメント(業務運営)」と「キャピタルアロケーション(投資)」の2つあり、コードではキャピタルアロケーションの方をより重視しているのではないでしょうか。知見のある複数の社外取締役の意見を取り入れることで、投資に関するより良い意思決定を行い、収益力を高めようというわけです。今回のコードによってコーポレートガバナンスが攻めの経営手法として注目を集める所以はこの点にあると思います。
73項目はあくまでもガイドラインです。遵守するのが望ましいですが、できない場合はその理由を説明すれば問題ありません。しかし生真面目な日本人のメンタリティからか、全て遵守しなければならない、と誤解している企業が多いようです。
コードは収益力を高めるためのガイドラインであり、それを自社でどのように運営していくかについては、各社ごと最適な方法を採用すればいいのです。全て遵守しようとか、順番通り取り組もうというのはナンセンス。企業には、今回のコードを参考に、コーポレートガバナンスをどう企業価値と結び付けて考えるかが問われています。

コードの理解と徹底は個人投資家にもメリット

 コードの趣旨が正確に理解され、徹底されれば、日本の上場企業全体で収益力の向上が期待できるでしょう。個人投資家にとってはその点が一番重要なポイントであり、コード導入のメリットではないでしょうか。収益力が増すことで中長期的に株価が上昇する銘柄も増えると思います。
株主と真剣に向き合う姿勢を具体的に示し、それが即座に株価に表れた例も出ています。しかし、バランスシートの改善だけで、収益力の向上というコードが目指す方向とは少し異なる例もあるようです。中長期の株価にインパクトを与えようとするならば収益力を改善することに尽きます。

現場の力が経営力不足で株価に反映し切れていない

 個人投資家がコーポレートガバナンスに関する報告書などを参考に、長期的に収益力が上昇しそうな個別銘柄を見極めるのはなかなか難しいでしょう。それは機関投資家にとっても同じです。株主と真剣に向き合っているかどうかを判断する際の有力な手掛かりになるとは思いますが、コーポレートガバナンスそのものが収益力を高めるわけではないからです。
海外投資家の目には、日本企業は現場の力は強いけれど、経営力が不足していると映るようです。現場の優れた力を企業価値や株価に反映し切れていない銘柄が多いと判断されています。今回のコード導入をきっかけに経営の力が強まれば、もともと現場の力は強いわけですから、どちらにも秀でた企業が増えることは間違いないと思います。それは日本の株式市場にとって中長期的にいい影響をもたらします。

5つのチェックポイントで株主に向き合う姿勢を見極める

 企業がコーポレートガバナンスをどの程度重視しているかを見極めるにはいくつかのポイントがあります。機関投資家は上場企業に対して最低限、下記5つは情報開示するよう要求すべきでしょう。
コードを遵守すれば、おのずとこの5つを開示することになります。個人投資家がこれらをチェックするのは難しいと思いますが、気になる企業の情報開示や株主と向き合う姿勢などを確認する際の参考になると思います。この5つが不明確な企業は中長期的な収益力の向上が不明確であると判断してよいと考えます。
いずれにせよ、コードが正しい理解のもと広く浸透することが重要であり、今後の課題です。日本企業の稼ぐ力を強化するために、「攻め」の手法としてコーポレートガバナンスを定義することはきわめて有効です。コードが形骸化せず定着すれば、日本企業や株式市場はもちろん、個人投資家にとっても喜ばしことであることは間違いありません。

1.企業理念が明確であること 2.自社の企業価値をどのように評価しているか 3.投下した資本に対する付加価値の顔(資本生産性)の中長期的な目標 4.目標に達するまでのプロセスが明確であるか 5.社長も含めた経営陣の選任プロセスの透明性

堀江 貞之氏

株式会社野村総合研究所
上席研究員 金融ITイノベーション研究部
堀江 貞之氏(ほりえさだゆき)

1981年、野村総合研究所(NRI)に入社し債券のクオンツアナリストとして働き始める。86年、現在業界標準となっている「NRI債券パフォーマンス指数」(後、NOMURA-BPIと改称)を開発。86〜88年、ニューヨーク事務所勤務、オプション・モデル/ターム・ストラクチャー・モデルを開発。96〜01年、野村アセットマネジメントでGTAAと通貨オーバーレイファンド、合わせて10億ドル以上を運用。01年NRIに戻り、年金ファンドのコンサルティングや資産運用の

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揺れるシャープ再建、「鴻海案」支持の欺瞞 決断へ秒読み 鴻海派と機構派が対立

シャープ再建の行方が揺れている。支援するのは鴻海(ホンハイ)精密工業か、産業革新機構か。シャープ経営陣の「決断の時」が刻一刻と迫る。20日の取締役懇談会で議論したうえで、24日の取締役で決議する、という流れが濃厚だ。

2月4日以降、シャープ経営陣が鴻海による支援に心を固めたかのような報道で一色になったが、舞台裏を探るとそう単純な構図ではない。鴻海派と機構派の対立が生じており、足元では「鴻海案を支持する取締役には欺瞞がある」との指摘も出てきた。

「契約書」を報道陣に見せる鴻海精密工業の郭台銘会長(2月5日、大阪市のシャープ本社前)(写真=山田 哲也)

鴻海は1月30日、支援額を積み増し7000億円規模の再建案を提示した。一部のシャープ取締役、そして債権を抱える主要取引銀行がそれに乗り、約3000億円を出資するという機構の提案が揺らいだのは事実だ。

一部の取締役の間に「条件の良い鴻海案を蹴って機構案に乗ることは、シャープ株主に対する『善管注意義務違反』に問われかねない」という意思が働いたとされている。

しかし、真相はそう単純ではない。「高橋興三社長以下、シャープのプロパー系の取締役は、依然として機構案を支持し続けている。鴻海案を支持しているのは、主に金融機関系の取締役だ」(シャープ関係者)。

機構の支援効果は「1兆円」規模

結果、13人いるシャープ取締役会は、鴻海派と機構派に分断され、態度を鮮明にしない者もおり、「どっちに転んでもおかしくはない緊迫した状態にある」(同)という。

鴻海か機構、どちらに乗った方が、シャープの未来は安泰なのか――。シャープ経営陣によるスポンサー選びの視点は明確。しかし、その答えを、表面上の出資額の多寡では測れないことが「分断」の理由だ。

一部の取締役が鴻海案に傾いたポイントは、その出資額の多さ。鴻海は7000億円規模を拠出、一方、機構案は、シャープ本体への出資額は3000億円。この「7000億円対3000億円」という表面上の数字だけが独り歩きした。確かに「シャープ本体への出資」という観点ではそうだが、「支援総額」という観点では逆転する。

あまりにシャープ取締役の理解度が低いことに業を煮やした機構が、2月2日に改めてシャープへ内々に提示した「産業革新機構提案のポイント」という文章がある。

これによると、シャープ本体が成長投資のために使える出資額が「3000億円」。加えて、鴻海との液晶子会社である「堺ディスプレイプロダクト(SDP)」の売却で「1500億円」がシャープに入り、計4500億円を成長投資に使えることになる。そして、さらに続きがある。

機構案では、シャープが窮地に陥った元凶とも言える液晶事業を、シャープ本体から分離、将来は機構傘下のジャパンディスプレイ(JDI)と統合する予定だ。統合までの数年間、この旧シャープ液晶事業を立て直すために投資をする必要がある。そのための融資枠を「2000億円」用意するとある。これを先の4500億円に足せば、計6500億円となる。この時点で、支援効果は鴻海案の7000億円に匹敵する。

シャープ本体への出資額に差はあるが…
●シャープ支援の内訳

液晶事業の分離については、髙橋社長も2月4日の記者会見で「液晶と家電などそれ以外はまったく違うビジネス」「(今後は)2つの固まりに分かれての運営になっていく」などと語り、液晶を分離していきたい意向を強調している。鴻海案に乗って再建するとしても、シャープの液晶事業は鴻海傘下の液晶子会社、イノラックスと統合すると見られ、いずれにせよ、液晶事業はシャープから分離される命運にある。

機構案の特徴は、これらに加え、主力取引銀行を中心に「3500億円」の金融支援を求めていることにある。

昨年5月にシャープが発表した資本増強策では、主力取引銀行のみずほ銀行と三菱東京UFJ銀行に各1000億円、計2000億円のA種優先株を割り当てている。機構は、これらを無償で放棄することに加え、2行が抱えるシャープへの債権を「デット・エクイティ・スワップ(DES)」で削減するなどして、計最大「3500億円」の支援を金融機関に求めている。

機構の文章によると、先の6500億円に金融機関の支援を考慮すると、「(機構案の)財務支援の効果は1兆円に上り、メディアで報道されるホンハイの6000億円を大きく上回ります」とある。最終的に鴻海は支援額を積み増して7000億円規模となったため、数字に食い違いがあるが、それでも、支援総額の規模という観点では機構が上回ることに違いはない。

鴻海案賛成が「善管注意義務違反」の可能性も

確かに、鴻海がいくら出すのか、機構がいくら出すのか、という議論に拘泥しては本質を見誤る。「7000億円対3000億円」という比較は「木を見て森を見ず」であり、どちらの条件が良いかという答えを出す作業は、極めて難しい。そのことに加え、鴻海による支援案が金融機関の支援を求めていないことが、事態をさらに複雑にしている。

前述の通り、機構案は金融機関に「痛み」を求める内容。翻って鴻海案では、優先株を簿価で買い取るとしており、金融機関にとっては都合が良い。「だから鴻海案に賛成しているのが、メーンバンクであるみずほ銀行出身の取締役と、その仲間」とシャープ関係者は言う。

仲間には、東京三菱UFJ銀行出身の取締役と、みずほ・東京三菱UFJの2行も出資する投資ファンド、ジャパン・インダストリアル・ソリューションズ(JIS)から来ている2人の社外取締役、すなわち、JISの住田昌弘会長と斉藤進一社長も含まれると見られる。

JISは、昨年、みずほ銀行と三菱東京UFJ銀行が計2000億円のA種優先株を引き受けた際、それよりも条件の良いB種優先株を250億円引き受けている。この配当は7~8%と破格。機構案では、これを普通株へ転換するよう求めており、「旨味」が消えるという点ではJISも痛みを伴う。

ただし、これらはあくまで「投資家」としての論理。シャープの株主や、シャープ経営陣としては、負債が圧縮されるという点で機構案の方が良い、という論理もある。

企業法務に詳しいある弁護士は、こう指摘する。「仮に、銀行やファンドの意向を反映して、それらと関係するシャープ取締役が鴻海案に票を投じるのであれば、そのことが逆に『善管注意義務違反』に問われる可能性もある」。

機構の関係者もこの点に憤りを隠さない。「シャープの既存株主からすれば、銀行やファンドが自分たちに都合の良い方を選んで逃げ切るようにも映る。金融機関は、ほかの株主のためにもシャープのためにも、『貸主責任』を取るべきで、シャープのために鴻海案だ、と主張するのは欺瞞にほかならない」。

「特別利害関係人」という新たな火種

この利害関係をめぐっては、新たな火種も浮上している。会社法が定める「特別利害関係人」だ。

会社法では、取締役がこうした自らに都合の良い判断を下さないよう、「特別利害関係人は、取締役会の議決に加わることができない」と規定している。銀行出身の2人のシャープ取締役は、銀行を辞めているため、利害関係を立証することが難しい。しかし、JISから来ている2人の社外取締役については、JISの現職の会長と社長を務めているため、鴻海案か機構案かを決める議決では特別利害関係人に当たる可能性がある。

実際、シャープの顧問弁護士事務所が、「JISの社外取締役は特別利害関係人にあたる可能性がある」としてシャープに意見書を出しており、2月4日の取締役会では、「JIS入り」の13人での議決と、「JISなし」の11人での議決、2通りをとっている。

この時の議案は、「鴻海案と機構案の2つを検討していく」という内容で、2通りの結果は変わらないため問題にはならなかった。しかし、鴻海か機構か、どちらかを選ぶ、という議決においては、JISの2人が「キャスティングボート」を握る可能性もある。

JIS入りとなし、2通りの議決をとって、結果が変わった場合は、どうなるのか。この点について、前出の弁護士は「そうはならないよう、事前に取締役会で議論を尽くし、どちらかを選ぶのが通例」とする。いずれにせよ、JISの取締役を議決に参加させるか否か、という攻防戦も水面下では繰り広げられており、シャープ再建の行方はますます混沌の方向へ進んでいる。

「自らの身をとしてでも」と高橋社長

もう1つ、鴻海案と機構案で決定的に異なる点がある。それは、「高橋社長以下、経営陣の退陣を求めるか否か」という処遇面。機構は経営陣の刷新を求めているが、鴻海は経営体制を維持すると約束している。

高橋社長は、鴻海案が急浮上したその日の記者会見で、「まず構造改革を全力でやり切ることが一番の経営責任。その先は、今の時点で考えていない」と語り、「続投に意欲を示した」と報じられた。仮に、自らの処遇を理由に鴻海案に票を投じるのであれば、それも「欺瞞」だとのそしりを免れないだろう。

しかし高橋社長は側近に、こうも語っている。「自らの身をとしてでも、何としてもシャープが生き残る道を選びたい」。

この言葉が本心であれば、金融機関やファンドのため、あるいは処遇のために決断が左右されるようなことがあってはならない。それは、高橋社長以外の取締役にも言えることだ。

既存株主や従業員、顧客のために最善の道はどちらなのか。極めて難しい判断が、13人の取締役に委ねられている。

2月4日の決算説明会で「1カ月以内に2社のどちらかを選択する」と話すシャープ髙橋社長(写真=都築 雅人)